343. イノベーション創造のキーポイントを個人、組織、組織間関係、国家という階層で俯瞰する

イノベーションは、 志や理想をもとに価値創造のために想像力や予想を用いながら不確定性に挑み、新しい構造やプロセスを創造する行為である。
イノベーションは個人の志から始まる。それが、組織および組織間関係へと広がり、国家や世界をさえ、より良く変えていく。
イノベーション創造のキーポイントを、個人、組織、組織間関係、国家という各階層について俯瞰して述べる。
組織の階層以上では、イノベーション創造に影響を与える組織内力学や組織間力学が存在し、各種のパターンでイノベーションの阻害やイノベーションの促進が発生する。(参考書籍1を参照)
この力学と、商品ライフサイクルで言う「導入期」,「成長期」,「成熟期」,「衰退期」という4つのフェーズとの関係についても述べる。


【個人の階層において】
個人の階層では、真・善・美・愛を実現しようという志こそがイノベーションのコア(中核)である。
この志を、薄れさせずに、組織にも拡大させながら組織を動かせてこそ、組織もイノベーションの推進体となるのである。
利益と安楽を駆動力とする人間活動は、困難や壁の前で容易に停止する。利益と安楽を駆動力と する者は、未来の確たるビジョンが無く、目先の利益と安楽を求めるので、 局所最適のポジションが あると、そこに安住し、利益や安楽が損なわれる方向への活動をしようとはしないからである。 他人と協力してイノベーションをおこせる場面であっても、 利・楽だけを求める者は、できるだけ 自分の負担とリスクを減らしながら、できるだけ大きい利益と安楽を得ようとするので、協力すべき 相手との間に利害対立が発生する。 そして、本質的な利害対立関係の上に契約関係を築きながら、 相互連携をしようとする。しかし、このような契約関係で結合した者達にはイノベーションはおこせない。
それに対して、真・善・美・愛を駆動力とする人間活動は、困難や壁があると、それを自分達を高める 試練と感じ、それを乗り越える努力をする。 そして、乗り越えて到達した新たな境地の価値を、乗り越えた 困難や壁が高めてくれる。利益や安楽を求めているわけでは無く、真・善・美・愛を求めているので、 他との協力による新たな真・善・美・愛をもたらす活動であるイノベーションを積極的に実行できる。

不確定性への挑戦の過程では、新たなコンセプト群の形成が必要となる。コンセプト群の形成を担うのがコンセプトオーガナイザーである。
この新たなコンセプト群をうまく表現して整理して新アーキテクチャとして示すことが、 イノベーション創造活動の混乱回避のためと共鳴する人を増加させるために重要である。

イノベーション創造のためには、個人においては創造性が必要である。創造的人間のパーソナリティとして、書籍「図解でわかる等価変換理論」の第156ページには、次のものを挙げている。
(1) 仕事における高い自発性とやる気
(2) 新しい視野からものを見る(観点の変革)
(3) ものごとの枝葉末節でなく、根本をつかむ(本質の把握)
(4) ロングスケールでものを見る(大局的観点)
(5) 時代の流れに対する感受性(時代感覚)
(6) 現状にあきたりない精神(創造的ロマンティシズム)
(7) 権威にこだわらない(非権威主義であって反権威主義ではない)
(8) 新しさへの憧憬(強い好奇心)
(9) 仕事に対する熱中性と持続性(湯川博士も指摘された精神性、いわゆる根性)
(10) 仕事 = 生きがい

【組織の階層において】
企業は、真・善・美・愛を人々が共同して追及し、その結果として利と楽を得るための組織(社会の公器) とならねばならない。 企業は、創業者というイノベータが立ち上げるが、事業や経営が安定すると、ホンダイノベーション魂や書籍「ホンダ イノベーションの神髄」で言うところのオペレーション派(執行派)の人々が主導権を握るのである。 そして、オペレーション派が主導権を握ると衰退が始まる。会社で主導権を握ったオペレーション派が、新たな事業の導入期と成長期において、成熟期と衰退期でのみ適合する価値観で事業判断や価値判断をしたり、判断を回避してイノベーションの芽を潰しているためである。 このような事態の結果として、企業が価値創造ができなくなると、企業は確実に滅びる。
オペレーション派主導の経営の典型が経理指標に基づいて経営を行なう経理主導経営である。これは、価値創造のエンジンが無いので、グライダーのようにスマートに滑空しながら高度を下げていき、最後は地上に落ちる。
しかし、経営者の一部には経理主導経営の数値と理論に基づいたスマートさに目を奪われ、高度を下げていることに気づかない人もいる。
オペレーション派は、イノベーションの達成時期や達成の内容の確実性や投資対効果の妥当性の保証を求める人である。この人たちは善意者であるが、イノベーションが 不確実性との戦いであるという本質を理解しておらず、次のような言葉で、イノベーションの芽を組織内で潰す。

● どうせ無理
● 前例が無い
● 他社では、やっていない
● リスクが無いとは言えない
● 誰もやっていないのは、駄目だからではないのか
● 時期尚早
● マニュアルとは異なる
● 皆の同意が得られない


オペレーション派は、PDCAサイクルを素早く回転させることで、様々な問題が解決されるとしてPDCAサイクルを個人のレベルでも組織のレベルでも早く高密度に実行しようとする。 しかし、Pの段階に想像力に基づいた新しいアイデアが含まれていないと、いくら DCAを行なってもイノベーションは生じない。
イノベーションに向かうことの出来るアイデアを含んだPの無いまま、頻繁に会議を行ない、計画書を作成しなおし、さらに計画書に基づいた業務を実行してみても、 イノベーションに向かわない。2階に上がる階段を発見することが無ければ、いくら歩き回っても1階の床の上をうろうろするだけである。
過剰管理で心理的な余裕や時間的な余裕が無くなって来たり、想像を軽視する風潮 が蔓延してくると、常識的な計画のもとで、報告書作成、会議実施、計画書の改訂が高頻度に 繰り返されるだけとなり、仕事の付加価値が低下する。その結果、付加価値向上を目指してさらに高速にPDCAサイクルをまわそうとすると、 付加価値を もたらす源泉であるアイデアが無くなってしまい、働けど働けどイノベーションゼロというサイクル(貧すれば鈍するという知的貧鈍サイクル)に陥る。
責任回避志向の強いオペレーション派が主導権を握っていると、イノベーションの芽を含んだPに対しては、イノベーションの芽の適否を判断できる目利き能力も不確定性に挑むための責任を 引き受けるとの覚悟もない中で、オペレーション派が責任回避と権限維持のために、PDCAサイクルを次のように劣化させる。
PCCC−−−CC 又はPCPCPCPC−−P すなわち、Pの段階の後にDを行なわず、形式的な事項についてのCやあいまいな基準でのCばかりを延々と継続させるのである。
その結果、Dの段階に移行することについて承認も不承認も行なわず、延々とCを行ない、最後にはPが自然消滅し、Dの段階には到達しないのである。

PNNNNNNNN すなわち、Pの段階の後にDも行なわせず、かといってCも行なわず、放置するというNを継続して、PがDに至る前に自然消滅させるのである。
Cの実行に伴う判断者の責任を回避するためである。

オペレーション派の人は言わば線形制御をしようとしているのである。評価指標における現在値と目標値のギャップが、状態空間での現在位置と目標位置の 差に比例するという線形な世界を前提にしている。 線形な世界では、現在位置を目標位置に移動させるために必要な投資量が、評価指標における現在値を目標値に上昇 させるという効果をもたらすことが確実に予測できるし、 現在位置から目標位置までのルートは簡単に求まる。評価指標が大きくなる方向に移動するだけで良い。

イノベーション創造のためには、商品ライフサイクルで言う「導入期」と「成長期」の事業については、オペレーション派に主導権を与えてはならないのである。 「成熟期」になって事業や技術に不確定性がほとんどなくなり、線形な世界となり、オペレーション派の人であっても対処できるようになって初めて、オペレーション派に引き継がせて、 それらを任せておけば良いのである。その場合には、下記に述べる破壊的イノベーションに打ち倒される危険がある。

組織内力学によって、イノベーションが阻害されるメカニズムは、上記の「オペレーション派がイノベーションの芽を潰す」というもの以外にも、イノベーションのジレンマというものがある。 大規模な自社の既存事業からみたら取り組む価値の低いと思われる姿と規模で最初は現れる破壊的イノベーションに対して、 目利き能力も無く責任感も無いオペレーション派が主導権を握った自社の組織の価値観と組織内力学に阻まれて、何も対処できないまま、自社の既存事業が打ち倒されるというものである。

イノベーションは、非線形な未開拓の世界でのルート探索であり、単純に評価指標が大きくなる方向に移動すれば目標とする評価指標値を実現できる位置に到達できるような簡単なものではない。 特に、状態空間がどのような構造をしているのかも不明で、不確実性が高く、急に谷があったり、穴があったり、そびえ立つような壁があったりする。
本当に目標値が達成できる位置が存在するのかどうかも判らないという状況である。まさに、非線形制御の世界である。

イノベーションでは線形な世界の限界に存在している穴や崖や谷や絶壁を乗り越えるという誰もやったことの無い努力をする必要がある。
そのためには、志や理想をもとに価値創造のために想像力や予想を用いながら不確定性に挑み、新しい構造やプロセスを創造するリーダーと、リーダーの志を理解し活動を許容する経営者と、 そのリーダーを支える組織が必要となる。
リーダーを支えてイノベーションを起こす組織では、事業・技術・知財の三位一体の活動において、組織の創発的相互進化の実現が必要である。
そのような組織では、事業、技術、知財の各活動は次のようになる。

事業活動は、顧客や社会に対して価値を提供できる機能を、商品やサービスを通じて、競争力と成長性を持って供給するという活動である。
技術活動は、顧客や社会に対して価値を提供できる機能を、技術を用いて商品やサービスの中に競争力と成長性を持って実現する活動である。
知財活動は、顧客や社会に対して価値を提供できる機能のための活動の競争力を、知的財産および知的財産権を用いた手段を中心として強化する活動である。

【組織間の階層において】
複数の組織の保有する技術や事業を組み合わせて、これまでに無い有望な技術や事業を実現するには、イノベーションオーガナイザが必要である。
イノベーションオーガナイザは、発明能力をもち、広い範囲の技術と事業を理解でき、複数の組織の 技術や事業の組み合わせによって実現できる新たな価値ある技術や事業を構想し、 その技術や事業の 構想の実現に必要な、内部組織と外部組織の組み合わせによる新組織をも構想できる人材である。
イノベーションオーガナイザの創造する構想を、MBA,MOT,知財の各専門家が肉付けし、弱点 を低減し、強みを強化した戦略に仕上げ、その戦略を経営指導者がリーダーとなり、 事業計画を作成して、 資金と人材を集め、技術開発や事業開発に進むことで、イノベーションオーガナイザの創造した イノベーション構想が現実化する。

イノベーション創造によって新たな産業分野を形成する導入期の実現までのフェーズでは、組織間の階層においてイノベーションモデルが重要である。

イノベーションモデルには、次のようなレベルがある。

【レベル0】資源投入量を増やせばイノベーション創造の確率が上がるというモデル
(1) 開発テーマや事業への投資金額を増やせばイノベーション実現の確率が上がるというモデル
(2) 開発テーマや事業への投入人員を増やせばイノベーション実現の確率が上がるというモデル
(3) 開発テーマや事業において収集し、分析する技術や知識の情報量を増やせばイノベーション実現の確率が上がるというモデル

【レベル1】優先順位を付けた資源投入量の分布によって、イノベーション創造の確率が上がるというモデル
(1) 複数件の開発テーマや事業において、それらの間での優先順位を付けた適切な投資金額によって、 全体としてのイノベーション実現の確率が上がるというモデル
(2) 複数件の開発テーマや事業において、それらの間での優先順位を付けた適切な人員投入によって、 全体としてのイノベーション実現の確率が上がるというモデル

【レベル2】投資金額、投入人員、投入する技術や知識の、質と量に関して、開発テーマや事業の優先順位 や特性に応じた最適な1セットを実現することで、イノベーション創造の確率を上げるというモデル

1つのプレイヤーの内部における資源配分や組み合わせの範囲を超えて、複数のプレイヤーの連携関係 を通じたイノベーションは、資金、人員、技術や知識の組み合わせの新規性やダイナミズムを拡大す ることができる。そのため、大きなイノベーションを実現する確率を向上させるには、 複数のプレイヤーの連携関係の中から生み出すという高度なレベルのモデルが必要となる。 下記のように、レベル3以上の高度なイノベーション創造モデルがある。

【レベル3】大学の研究室の有望なシーズ技術を、民間企業に移転するという産学連携がイノベーション実現 の確率を上げるというモデル

【レベル4】有望な事業に挑戦しつつあるベンチャー企業と、大学の研究室の有望なシーズ技術の組み合わせとともに、有効な事業戦略やビジネスモデルを提供する戦略家が連携することで、イノベーションの確率を上げるというモデル

【レベル5】レベル4のイノベーション創造モデルにおいて、各プレイヤーの間の利害対立を減らすため 、各プレイヤーの連携関係の組み合わせの多様性の拡大のため、非営利で中立的で知的なプレイヤーを介在させることで、イノベーションのサイクルが拡大回転するというイノベーションエンジンのモデル



イノベーション創造によって新たな産業分野を形成する成長期と成熟期の実現のフェーズでは、組織間の階層において、ビジネスモデルが重要である。

すなわち、「事業において、競争優位性の確保と大量普及を両立させる戦略」を実現するためのビジネスモデルである。

困難度の高い技術は高い顧客価値と高い競争優位性を備えることになる場合が多い。
なぜならば、困難度の低い技術は簡単に模倣や普及がされて競争優位性の低い「普及技術」になってしまうが、困難度の高い技術は 普及しにくいために競争優位性を保てる場合が多いので、困難度の高い技術の中の高い顧客価値提供ができるものは、高い顧客価値と高い競争優位性を 兼ね備えることになるのである。
困難度の高い技術には、次のようなパターンがある。

@広大な敷地や莫大な電力のような巨大な資源を必要とする技術。
A特殊な設備や特殊技能者の存在を必要とする技術。
B膨大なデータの蓄積を必要とする技術。
C膨大な組合せの中から希少な使える組合せを抽出することを必要とする技術。
D構成要素(部品または工程)間の関係を微妙に調整して初めて動作させることができる装置や方式の技術。
E膨大な部品や工程の複雑な組合せや調整に関する膨大で正確な知識を必要とする技術。

困難度の高い技術は、普及が遅い。普及が遅い技術を必要とする製品は大規模には生産できないし、多様な製品の開発も生産もできない。

すなわち、困難度の高い技術を用いた製品の事業や産業は、何らかの工夫をしない限り、普及の困難度が原因で大きく成長させることはできないのである。 困難度の高い技術を早く大規模に普及させるための方策には次のようなものがある。

A:必要とする巨大な資源を、多数の人や企業が利用可能なインフラとして運用する。
B:特殊な設備や特殊技能者が果たす機能や能力を、汎用的で安価な高機能装置で実現できるようにする。
C:必要な膨大なデータを使用可能なシステムを構築して、その膨大なデータの利用を促進する。
D:膨大な組合せを自動的に実行し、その組合せを自動的に評価し、良い組合せを自動的に抽出する自動組合せ装置を利用可能とする。
E:構成要素間の微妙な関係を自動制御して最適な関係を自動的に形成し維持できる自動制御装置を利用可能とする。
F:膨大な部品や工程を、相互関係が疎ないくつかのモジュールに分割し、モジュール間のインタフェースを標準化するとともに、モジュールの組合せレシピや、モジュールの組合せを 容易にするプラットフォームを豊富に提供する。

困難度の高い技術に基づいた競争優位性の確保と、困難度の高い技術を早く大規模に普及させるための方策の矛盾を克服しながら、事業を発展させる仕組みを形成することが必要である。

そのためには、次のような戦略が必要である。

MA: Aの実行において、インフラの提供を独占しながらインフラからの高い利益を維持できるように、インフラの規模の拡大、インフラの能力の拡大、インフラの利用アプリの拡大を図っていく。
MB: Bの実行において、高機能装置の内部で高機能を実現できるコアの部分を独占してコアの利益率を高く維持しながら、高機能装置の安価大量普及を図る。
MC: Cの実行において、膨大なデータを秘密にしながら膨大なデータを競合よりも高速に増やしていき、そのデータの利用サービスの安価大量普及を図る。
MD: Dの実行において、自動組合せ装置のコアである「組合せの評価機能」の秘密の確保と独占を図りながら、自動組合せ装置の安価大量普及を図る。
ME: Eの実行において、自動制御装置を高い利益率を維持しながら独占をしつつ、その自動制御装置を組み込んだ各種のアプリケーションシステムの安価大量普及を図る。
MF: Fの実行において、システムを構成する多数のモジュールの中の、1個以上の少数個のモジュールにおいては、前記AからEの戦略の少なくとも1つを適用したモジュールを設定する。

(オープン|クローズ & モジュラー|インテグラル)のフレームワークは、結局のところ、高い顧客価値を提供できる製品における「技術の困難度への対応策」を 表現する1つのフレームワークを示している。すなわち、上記の分類で言えばMFのフレームワークがこれに相当する。

すなわち、戦略としてMFだけでなく、MA〜MEも「事業において、競争優位性の確保と大量普及を両立させる戦略」なので、ケースに応じてこれらの実行にも注力すべきである。

【国家の階層において】

「日本のイノベーションに関する主たる問題点」は前例踏襲横並び主義である。
イノベーションを実現するイノベーターの活動の阻害要因が、イノベーション活動の初期段階に多すぎるということが主要な問題である。 イノベーターの活動に必要な設備、資金、人員、情報、業務権限の 割り当ての決定権限を持っている人がイノベーションと逆方向の価値観(前例踏襲横並び主義の価値観)を持っている場合が多いということが、日本のイノベーションに関する主たる問題点である。
簡単な例で言うと、「世界初の○○というものは、実績のない、他社もやっていないような、成功するかどうかわからないものであり、そんなものに、経営資源を投入するわけにはいかない」というオペレーション派の論理で、 多くのイノベーションが日本か ら消滅している。

公共調達において特許権者・ライセンシーを優遇する制度が、イノベーション創造のトリガーとして重要である。

前例踏襲横並び主義の価値観は、目利き能力が無くても何らかの判断ができ、判断結果について責任を問われにくいというメリットが、この価値観を用いて判断するオペレーション派の判断者側にあるために、日本の隅々にまで広まっている。
知的財産権制度は、イノベーションの促進策である。しかし、知的財産権は排他権であるので、排他すべき競合企業の活動がほとんど無いという市場開拓の導入期には効果を発揮しない。 このような状況のもとで、市場開拓の導入期において、イノベーターの行く手をさえぎる前例踏襲横並び主義の価値観の沼を突破するため には、イノベーターであることが事業利益に結び付くという巨大な光が必要である。
それが、「公共調達において特許権者・ライセンシーを優遇する制度」である。

政府予算の規模は年間80兆円を超えるものになっている。地方自治体および独立行政法人の予算も含める とさらに巨大となる。
この大規模な予算の執行での公共調達において、特許権者・ライセンシーを優遇す るならば、イノベーションをおこして特許権を取得することが、公共調達を受注することや、 公共調達を受注 する企業などからのライセンス収入を得ることにつながることになるので、イノベーション促進の大変に 大きな駆動力となる。
そして、この駆動力が「前例踏襲横並び主義の価値観」を弱め、イノベーションの 阻害要因を減少させ、本来の日本のイノベーション能力を発揮させるようになる。 本来、特許法上の「業 としての特許発明の実施」の中に政府などによる特許発明の実施行為も含まれるので、「公共調達において 特許権者・ライセンシーを優遇する制度」は政府が特許権侵害をしないためにも当然のことある。 当然のことを促進することが、日本のイノベーション促進にもなるのである。具体的には、公共調達の手順に関する政令を設け、その政令に次のことを定め、それを確実に実行することである。

(1)公共調達の発注仕様の作成段階おいて、その発注仕様に関連する特許権の調査をすることを、発注者の 義務とする。
(2)公共調達の発注手順の中に、発注仕様をカバーする特許権を有する者からの特許権の提示などがあった 場合の措置を定める。
(3)公共調達の発注仕様をカバーする特許権の存在がわかった場合には、その特許権の特許権者またはライ センシーでない者に発注することはしないものとする。



【参考書籍】
1. イノベーション戦略論 〜イノベーション実践の理論とノウハウ〜 (単行本(ソフトカバー))198ページ

【参考サイト】
1. 情報通信審議会イノベーション創出委員会 論点整理(案)2013年4月25日
2. 情報通信審議会 情報通信政策部会 イノベーション創出委員会(第5回) 参考5-2 提案公募結果(提案原本)
3. 産業構造審議会産業技術分科会報告書 「イノベーション創出の鍵とエコイノベーションの推進」におけるイノベーション創出のための取り組み事例集
4. イノベーションのジレンマ
5. Daniel Pink - Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us

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