188.コンセプトオーガナイザー

特許業務をすることで獲得する能力に、概念抽出の能力,概念の組織化の能力,概念の記述能力というものが あると思います。これまでに無かった技術思想である発明を、発明者の作成したドキュメントや装置や、 発明者の説明する言葉や集団でのブレーンストーミングで出た内容から抽出し、それを表現して、発明者に それをフィードバックして、発明者が自分の発明の本質を把握して、発明をさらにブラッシュアップしていく というプロセスを日常的にしていると、コンセプトオーガナイザーという存在になっていきます。
複数の人が一定のテーマのもとで技術や事業や経営や哲学について議論していた場合、議論での相互の概念の 調整であったり、新たな概念を生み出すための混乱であったりするフェーズを必ず必要とします。
そのようなフェーズでは、議論の中で発生した新たな概念を整理して、それに新たな用語と定義を与え、 その用語を含む形で、議論を通じて得られた概念群を整理して体系化して記述するという仕事が必要となります。
このような仕事を、コンセプトオーガナイジングと呼び、そのような仕事をする人をコンセプトオーガナイザー と呼びたいと思います。
多くの分野の人々が関係する新規事業や新分野の技術開発を行なう場合、コンセプトオーガナイザーが必要 となります。
なぜなら、各メンバーは既存事業や既存技術分野の専門家であったり実務者やリーダーですので、各分野の 事には精通し、その分野における専門用語で自分の思想や概念を説明しようとしがちです。
そして、そのような人たちが一緒になって新たな分野である新規事業や新規技術分野を切り拓こうというときには 新たな概念体系を構築するということが必要となってきますが、話がなかなかかみあいません。
すなわち、複数の異なる概念体系が衝突しながら新たな概念体系を創出するためのカオスが発生します。 このカオスをうまく制御しながら、カオスの中から価値ある新たな概念体系を抽出し、創造し、記述し、 集団にフィードバックすることで、新たな価値ある概念体系を組織化するのが、コンセプトオーガナイザーの 役割であると考えます。
コンセプトオーガナイザは、新規事業や新分野の技術開発を行なう過程において、概念体系を記述した ドキュメントを更新し続けるとともに、参加メンバーが共有する概念体系とできるように、様々な理解容易性 や抽象度のレベルで説明し続ける必要があります。すなわち、例え話を用いて複雑な事柄をできるだけわかりやすく 説明したり、数式や図を用いてできるだけ厳密に表現するということも必要です。
また、仮説の部分と事実の部分を区別して記述すると共に、具体的な活動の目標や組織の役割を概念体系に 中に位置付けるようにすることも必要となります。
そして、そのようにして創造した新たな概念体系の中で、発明と言えるものを抽出し、事業に役立つ形で それをまとめ上げて特許出願して権利化することも、コンセプトオーガナイザーであれば、容易に可能です。
また、コンセプトオーガナイザーとしてまとめあげた概念体系のもとで、その概念体系で示される事業や 技術の実現に必要な要素技術や必要な専門家が誰であるかについても一部については示すことができます。
企業において知財部門は、知的財産権の構築と活用だけでなく、知財業務のエキスパートとして獲得した能力 をコンセプトオーガナイザーとして事業や経営に活用するという事も可能です。

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