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390. 新産業構造ビジョンでのリアルデータ・プラットフォーム戦略実現のために追加する「戦略その3」

注) 本論考のPDFファイル

新産業構造ビジョンは、2017年5月30日に、経済産業省 産業構造審議会 新産業構造部会(第17回)にて、発表された。(参考サイト1)

この案で述べている戦略は、私の分析によると、下図のとおりである。

すなわち、「リアルデータプラットフォームを用いて、リアルデータの利活用サイクルの社会実装を行ない、 そのサイクルから革新的製品・サービスを創出してイノベーションを創造する。」である。
このイノベーションによって、 @移動する、A生み出す・手に入れる、B健康を維持する・生涯活躍する、C暮らすの、戦略4分野の課題を 解決して、2030年代に目指す社会を実現する。」というものである。

そして、リアルデータ利活用サイクルを実現して回転させるために、次の6項目からなる産業構造・就業構造の 変革を行なう。
@ルールの高度化、A人材育成・活用システム、Bイノベーションエコシステム、C経済の新陳代謝システム、 D社会保障システム、E地域・中小企業システム、である。

しかし、この6項目の変革を実行するためには、次の5つの壁を突破することが必要であり、その方法は参考サイト4にて述べた。


新産業構造ビジョンの中心である「リアルデータプラットフォームを用いて、リアルデータの利活用サイクルの社会実装を行ない、 そのサイクルから革新的製品・サービスを創出してイノベーションを創造する。」のために、戦略その1と戦略その2が示されている。

●リアルデータプラットフォーム創出のためのアプローチ(戦略その1)
リアルデータプラットフォーム創出へ向けて、まず、日本の「モノ」の強みを活かしたプラットフォーム創出を進めていくべき。
「モノ」の強みを活かしたプラットフォーム創出にあたっては、ハードとソフトの新たな融合が鍵。

●リアルデータプラットフォーム創出のためのアプローチ(戦略その2)
日本は「課題先進国」。リアルデータプラットフォーム創出にあたって、以下の点を踏まえれば、課題先進国であることは、むしろ「チャンス」と捉えることが可能。
@「課題」の大きさゆえ、国家戦略として、「リアルデータの利活用サイクルの好循環」を創出していく必要性が高い。
A世界最先端の「課題」解決に繋がるのであれば、新たな技術やルールの導入に対する社会の合意形成の可能性が高い。
B「課題」に関する、豊富なリアルデータの蓄積が可能
「モノ」の強みを活かしたプラットフォーム創出に加え、国家戦略として、世界的に見ても先進的かつ重要な課題に正面から向き合い、逃げることなく、
その解決のためのプラットフォーム創出を進めていくべき。
課題解決のプラットフォーム創出にあたっては、実際に現実の世界で、リアルデータの利活用サイクルの社会実装を世界でいち早く進め、改善を繰り返すことが鍵。


この2つの戦略に、次の「戦略その3」を私の私案として追加する。その狙いは、リアルデータの世界で、バーチャルデータの世界の巨人に日本が負けない事である。

IoTにおける価値創出の主役を、サイバーフィジカルシステムの両端(サイバー側の端:アプリケーション,フィジカル側の端:センサまたはアクチュエータ)に取り戻すために、 中間層はデータ流通市場という分散型システムのアーキテクチャを推進する。(戦略その3)
下図で説明する。

現在は、アプリ分野別に、エッジデバイスであるセンサ(血圧計、建設機械)からのデータを、アプリ事業者が吸いあげて、そのデータを加工して、ユーザへの価値提供に用いている。 しかし、IoT産業革命の時代とともに、水平統合の形態に変わっていく。しかし、水平統合の形態には2つがある。

1つは、下図の右下側にある「避けたい未来像」である。ここでは、クラウド側の巨人(Google,Apple等)が、AIなどのデータ分析力や、アプリストア、データストアの支配力の 組み合わせで生じる「ツー・サイド・プラットフォーム」(参考サイト5)の効果を用いた圧倒的な支配力で、エッジデバイス側とアプリ側の両者を小作人のように支配するのである。
すなわち、エッジデバイスが出力するセンシングデータなどのリアルデータの記憶や分析や供給も全部、クラウド側の巨人が支配する世界である。
これは、データに所有権が認められていないことに起因して生じている状況である。すなわち、アプリで使うかどうかわからないデータも含めてクラウドが吸いあげて、データとアプリの間の流通路を 支配することが可能なのは、データに所有権が認められていないために、無償でクラウドがデータを吸い上げることが、できているためである。
当事者間の契約ができるとは言っても、ツー・サイド・プラットフォームとなったクラウドの圧倒的な支配力の前では、エッジデバイス側もアプリ側も小作人化してしまうしかない。
データ所有権が認められれば、クラウド側は金銭などの対価を払ってまで、使うかどうかわからないデータを吸い上げることは、資金的に不可能となる。
データ所有権が無いので、クラウド側の巨人は、無償でエッジデバイスからのデータを吸い上げて、処理するとともに、 小作人化したアプリ提供者からのアプリをユーザのエッジデバイスに提供することで、アプリ側市場もエッジ側の市場も支配するというものである。 エッジとアプリが強いがクラウドやAIが弱い日本にとっては不利な世界である。

これに対して、下図の右上側にある「有りたい未来像」では、「IoTデータ流通市場」が、エッジデバイスからのリアルデータの売り注文と、アプリからのリアルデータの買い注文 をマッチングさせ、マッチしたペアについて、エッジ側からアプリ側に対してデータが流れるようにするためのデータフロー制御指令を発する。
そして、エッジ側のセンサからはセンシングデータというリアルデータが、データ所有権(参考サイト3)に基づいた取引契約に従って、アプリ側に送られる。これは、Senseek(参考サイト2)という分散型アーキテクチャなので、中間層のクラウドが ないため、クラウド側に付加価値を取られることはない。
必要な情報分析はアプリ側で行なえば良い。アプリにAIを組み込むこともできる。アプリがエッジデバイスで動作するようにするためのアプリのエッジデバイスへの組み込みは、アプリストアを介さずに、 アプリとエッジ側でのB2Bビジネスによって行なう。アプリ側にもエッジ側も収益が大きくなるし、分散型アーキテクチャなので、障害に強いし、拡張性が高い。



有りたい未来像に行くか、避けたい未来像に行くかの分水嶺は、データ所有権を法制度化してIoTデータ流通市場を世界に先駆けて創設できるかどうかにかかっている。

【参考サイト】
1. Society5.0・Connected Industriesを実現する「新産業構造ビジョン」
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shin_sangyoukouzou/pdf/017_04_00.pdf
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shin_sangyoukouzou/pdf/017_05_00.pdf
2. Senseek
https://web.archive.org/web/20151002100249/http://www.omron.co.jp/about/ip/patent/17.html
3. データ所有権について
(1)センシングデータの所有権と知的財産権について
http://www.patentisland.com/memo358.html
(2) データ所有権法(試案)
http://www.patentisland.com/memo364.html
(3) 所有権の本質と所有権の客体である有体物の概念を明確化して、データ所有権をブロックチェイン技術を用いて現実化する方法
http://www.patentisland.com/memo370.html
(4)世界の価値あるデータを日本に集中させて、IoT産業革命で日本が大きく発展するための方策
http://www.patentisland.com/memo373.html
4. デジタル・ニッポン2017と新産業構造ビジョン(案)の比較による日本のIoT産業革命成功のキーポイント
http://www.patentisland.com/memo389.html
5. ツー・サイド・プラットフォーム
http://www.jmrlsi.co.jp/knowledge/yougo/my08/my0841.html

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