226.知財業務に必要な能力

知財業務に限らず、多くの業務において必要な能力の基本要素は、「志、構想力、知識、実行力」 であると考える。

「志」は価値観と理想像と意志からなると考える。理想像の方向を目指し、価値観を基準とした選択 による判断と行動によって、意志を駆動力として進んでいくのである。

「構想力」は、自分の志からみた良い状態の構想を具体的に明確化する能力と、現実を広く深く正確に 認識する能力、現実の状態を良い状態にするための体制や計画や作業などを具体的に企画する能力で ある。これには、膨大な個数の組み合わせからなる選択肢の中から価値ある選択肢を短時間に決定する 能力も含まれる。また、未来を予測する能力も含まれるし、不確実性を適切に取り扱う能力も含まれる。

「知識」は、事象に関する知識、法則や規則に関する知識、資源に関する知識、マネージメントと戦略の知識 からなる。

「実行力」は、構想した内容を実行するための意欲、体力が基礎として必要であり、その上に実行の ためのキーポイントを見抜く着眼点の良さ、実行中に発生する問題の発見と問題解決の能力と、 関係者や関係する資源を動員して動かすための交渉力や協力や制御の能力も必要である。自分自身で 行なわねばならない事項は、着実に適切なタイミングで実行する能力も必要である。

●知財業務に必要な志は、知的財産を用いて社会や自分の所属する企業等に価値創出と価値獲得で 貢献できている状態のビジョンと、そのビジョンの実現に必要な判断や行動の基準となる価値観と、 ビジョンと価値観に基づいた行動を行なう意志である。また、知的財産を創造する創造人材に対する 敬意と連帯の意識も必須である。

●知財業務に必要な構想力は、@現在と将来の市場の状態,A自社と競合企業の強みと弱みと競争領域 の動向,B技術進化の動向をもとに、自社の事業競争力を強化する事や、社会貢献の大きい事業に 貢献できる知的財産の創造を行ない、その知的財産を自社内でうまく組み合わせ、さらには他社や 他機関の知的財産とうまく組み合わせ、その組み合わせを事業に結びつける事業企画や提携などとの 整合を行ない、それらの企画に基づいた現在と将来の事業を知的財産権で競合から守る方法、提携に より事業を発展させる方法と体制などを構想するものである。

●知財業務に必要な知識には、@自社や他社の知的財産権の内容や数量や事業上の位置関係や法的状態 などの事象に関する知識、A事業に大きな影響力を有する基本特許などのキーとなる知的財産権に関 する自社の配置の状態、自社の発明人材の配置や動向、侵害摘発に必要な外部機関や社内部署の能力 や状態というような、知的財産に関する資源についての知識がある。また、B知的財産権法や判例や 審査基準の内容や動向に関する知識や、明細書の書き方や読み方、オフィスアクションへの応答のた めの分析と応答方法、各種の鑑定や調査の方法に関する知識も必要である。 Cさらには知的財産マネージメントに必要な知識、特許戦略実践に必要な知識もある。

●知財業務に必要な実行力には、@知財業務でのキーポイントである基本発明、基本特許、ブランド価値の 高い商標、応用範囲や競争力の大きな著作物などの、戦略知財を見抜く能力や、戦略知財の権利を 獲得する能力が必要である。
また、A自社に大きなリスクを与える他社の知的財産権や、他社とのリスクの大きな契約の存在という リスクのキーポイントとその影響を見抜く能力も必要である。
B戦略知財と、リスクのキーポイントを把握した上で、構想した企画や体制の現状と将来を見通し、 それに基づいた問題抽出と問題解決を迅速・的確に実行する能力も必要である。

全ての基本は「志」である。志が間違っていると、いくら構想力や知識や実行力があっても駄目である。 志が間違っていると、進む方向が間違っているからである。
志が正しくても、構想力がなければ、知識と実行力があっても、実現の仕組みも企画も無く資源が 結集できないので駄目である。
志が正しく、構想力があっても、知識が無ければ、実行力があっても、具体論や細部での穴や欠陥が 発生し、構想も実現できないので、駄目である。
志が正しく、構想力があって、知識があっても、実行力がなければ、駄目である。

しかし、志があれば、その他の能力は不足していれば、努力してそれらの能力を構築して志を実現 するものである。
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