225.社会と競合の中での創発的相互進化プロセスにおける知財業務

企業における研究開発や知的財産の創造や活用などの活動が、経営の意志のもとで行なわれるという 事、具体的には事業計画に沿った開発や知的財産権の活用が行なわれるということは、基本的には正しい。

しかし、経営にしても、事業にしても、変化していく社会や市場に適合しながら、変化していくもの である。そして、社会や市場の変化を予測しながら、ある程度の幅や変化を持たせつつ、商品開発や 技術蓄積は行なわれる。

具体的には、将来台頭してくるであろうデバイスに接続できるインタフェースを用意しておくとか、 ファームウェアの変更が簡単にできるようにして、システムの基幹部分の変更を少ない開発工数でで きるようにしておくという開発技術上の工夫もある。アーキテクチャー間の優劣の将来動向を常に 監視し、それへの対応を考えるということもある。1つの要素技術の発生が、アーキテクチャ間の 優劣関係を大きく変えてしまい、競合企業に対する競争力が大きく影響を受けることもある。

また、競合企業と自社は相互に相手の動きを見ながら、相手に勝てる策を考え、実行する。
例えば、新機能を搭載した製品を市場に出すタイミングと、その製品の価格設定や補助機能設定の 問題は競合企業の動向が大きく影響する。

したがって、競合企業の活動内容に応じて、当初の事業計画が変わることは当然にあるので、 自社にとって重要な知的財産も変わり、活用対象の知的財産権も活用の形態も変わり得る。 このようなダイナミズムが、市場および競合との関係を通じて発生するので、自社の経営が当初に 決めたとおりには動くとは限らない。

すなわち、事業も技術も社会も相互に影響を与えながら進化している。創発的相互進化と言える ダイナミックなプロセスの中で、知的財産業務は行なわれているというのが実態である。
そのようなダイナミックなプロセスの中でも成果をあげる知的財産業務のプレイヤーは、あたかも サッカーの試合で相手と自分のチームの動きを見ながら、そしてゲーム展開の将来を予測しながら、 適切な位置にロングパスをして、自分のチームの適切なメンバーによるゴールを決めさせる 中村俊輔のような活動をすることが必要となっている。
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