155.分析と統合の出会う場としての請求項

知的財産基本法に示されて いる知的財産の定義をもとに考えますと、知的財産はコピーや模倣が可能に表現されて いる知的創作物であることがわかります。コピーや模倣が可能に表現された知的創作物であるからこそ、 コピーや模倣の禁止対象を定義でき、知的財産権という権利が存在できるのだと思います。
 このような知的財産の中で、発明および考案は特殊な位置付けを有します。「請求項」という極めて抽象度 の高い表現形式と、「実施の形態」という抽象度の低い具体的な表現形式の二重構造を有するところが特殊 です。

 意匠、商標、商号、著作物、営業秘密などは、このような二重構造を有していません。
 請求項は分析知と統合知の両方が出会う場であると思います。発明を分析して常識的な技術概念の組み合わ せで発明を表現することと、既存技術との比較分析によって発明の範囲を明確にすること等によって請求項が 作成されます。また、出願時点での既存技術の問題を分析して得た発明の目的、その目的を達成するために行 なわれた発明のエッセンスが請求項として表現されるという構造のビジネス上の分析もなされています。
請求項は、構成要素という常識的な技術概念を統合して、「発明の目的」達成の技術的手段を示している知識 情報でもあります。
請求項を技術的問題解決のための知識情報であるとして把握しますと、請求項の情報を駆使して、様々な技術的 手段を統合することで技術コンサルテーションが可能であることがわかります。
問題は、知的財産をカバーする知的財産権が独占排他権であるので、リスク管理や権利者との取引が必要と言 うことです。経営の視点から見ますと、知的財産権は参入障壁であり、売却益をもたらす可能性のある財産権 でありますが、事業利益を創出するものではなく、事業上の損失を防いだり、事業外の利益をもたらすもので す。
しかし、技術的問題解決のための知識情報としての請求項は、事業の基礎となる商品の企画やアイデアの幅を 広げたり、アイデアの発生頻度を向上させたりするという重要な効用があります。
技術的問題解決のための知識情報としての請求項の効用を拡大するためには、請求項の記述形式の標準化が 大変に重要となります。それが実現でき、請求項の構成要素に対して、構成要素に対応する部品の CADデータへのポインタが付随するようになれば、請求項をもとに製品が生産できるという状態になりま す。

 あたかも、DNAの情報をもとに生物の組織が生成されるような状態となります。
そうなれば、請求項は文明にとってのDNAということになります。
話は突拍子も無い方向に行きましたが、請求項は技術上もビジネス上も分析と統合の出会う場であるという事 です。
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