148.知財組織の能力の発展サイクル

知的創造サイクルは、創造−>保護−>活用と進み、また創造に戻ると言うサイクルとなっている。

出典: http://www.ipr.go.jp/intro4.html

●知財組織は、保護−>活用−>創造と進み、また保護に戻ると言うサイクルで螺旋的に発展していく。

●すなわち、発展の第1サイクルでの「保護」のレベルでは、研究開発部門からの発明などの知的創作物を権利 化するという業務から知財組織は始まる。
発展の第1サイクルでの「保護」のレベルにとどまっていると、知的財産権は活用されること無くたまり、 知的財産権の維持コストや知財組織の人件費などが目に見えてかかるのに、維持している知的財産権が発揮しているか もしれない目に見えない威圧効果だけが、企業に対する知財組織の貢献であるということになる。
この段階から、他社の知的財産権のリスクの評価と対策の業務を強化するという発展ルートもある。
しかし、リスク対策を完全にできるわけでも無いので、リスク対策をしたはずなのに他社から権利行使を受け て事業に大きなダメージを被るという事態がいずれ発生する。(参考サイト3)
また、自社の知的財産権が他社に侵害されて、自社事業がダメージを被るということもいずれ発生する。(参考サイト4)
そうなると、事業を自社の知的財産権を用いて保護せず、他社の知的財産権による攻撃も有効に防御できない という事態になる。
この状態では、知的財産権の取得費用と知財組織の人件費がかかるだけで、事業に役立っていないということ になってしまう。

●そうならないためには、次の段階である「活用」のレベルに到達しなければならない。
当然の事であるが、この「活用」のレベルは、その前段階である「保護」のレベルで確立した組織としての機 能を維持した上で実現しなければならない。
発展の第1サイクルでの「活用」のレベルでは、権利化した知的財産権を侵害する他社に権利行使を訴訟も含 めて積極的に行なう。この活用のレベルで権利行使を知財組織として経験することで、権利行使に耐える 知的財産権の条件や権利行使におけるリスクや費用や必要な人員や組織の能力などのノウハウなどを、 組織として学習することができる。この学習を通じて、権利行使においては効率の悪い訴訟は回避すべき であることや、単純な権利行使だけでは事業の発展への貢献は少ないことや、権利行使を契機とした提携に よって事業貢献できる場合があることなども、実感を伴なった知見として知財組織が学習できる。
発展の第1サイクルでの「活用」のレベルにとどまっていて、権利行使が成功し続けていると、事業部門が 知的財産権の活用に過度に頼ってしまい、本来の業務である顧客価値創造がおろそかになってくると言う 副作用が発生してくる。すなわち、知的財産権の行使によるロイヤリティ収入に依存しすぎたビジネスモデル や、知的財産権の行使による競合企業排除に依存しすぎた事業運営が広がってしまうと、企業の事業体としての 基礎体力が衰えてしまうのである。

●このような副作用が悪影響をもたらさないようにするためには、次の段階である発展の第1サイクルでの 「創造」のレベルに到達しなければならない。
当然の事であるが、この「創造」のレベルは、その前段階である「活用」のレベルで確立した組織としての 機能を維持した上で実現しなければならない。
発展の第1サイクルでの「創造」のレベルでは、知的財産権の活用を通じて、補完関係となる企業との提携 で新しい市場や事業を創造する事を行なうことも、知財組織の業務とできる。
また、基本発明を基本特許に仕上げて活用することで事業貢献してきた経験から得た「技術を見る眼」を活かし、 コア技術とすべき技術の選定や、コア技術を用いた事業展開の企画などに知的財産部門が貢献することも できる。
また、第1サイクルでの「保護」と「活用」の経験で蓄積した「技術と企業を見る眼」を活かし、M&Aに おける企業評価の業務を行なうことができるようもになる。
発展の第1サイクルでの「創造」のレベルにおいて、前記の「創造」の業務の比率が過度になると、「保護」 と「活用」の業務がおろそかになると言う副作用が発生する。また、企画部門や研究開発部門における技術 を見る眼を衰えさせると言う副作用も発生する。特に、第1サイクルでの「保護」と「活用」のレベルに 到達していないため能力不足であるにもかかわらず、この「創造」のレベルの業務を知財組織で行なおうと するならば、「保護」と「活用」と「創造」のどの業務もできないという最悪の状態となる。

●第1サイクルでの「創造」のレベルまで知財組織能力が到達した後には、第2サイクルでの「保護」の レベルの業務をすることが可能となる。
第2サイクルでの「保護」のレベルでは、技術標準化によって、事業の舞台である市場の拡大の基盤環境を 構築しながらも、自社の事業競争力、技術の優位性、提携関係、知的財産権のパワーなどを総合的に駆使して、 自社の事業に有利なポジションを獲得することで、自社の事業を保護する。これは、まさに競争と協調の 調和したレベルである。(参考サイト1、参考サイト2)
当然のことであるが、第2サイクルでの「保護」のレベルの業務をするためには、知財組織は第1サイクルで の「保護」、「活用」、「創造」の各段階のレベルの機能を習得した上で維持していなければならない。




私の母校の客員教授もされておられ、私が尊敬する丸島先生は、 特許戦略における宮本武蔵のような人だと思います。丸島先生の教えを実行するためには、その実行ができる レベルにまでまずは知財組織が組織としての学習を完成していなければならないと考えます。

【参考サイト】
(1) 知財戦略の本質は「競争と協調」
(2) 知的財産立国・日本が目指すべき目標とは
(3) 特許侵害リスクマトリックス
(4) 特許権の威圧効果が発揮されない場合

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