118. キャノンインクカートリッジ事件の知財高裁判決にみる様々な形態の消尽

今回の判決(H18. 1.31 知財高裁 平成17(ネ)10021 特許権 民事訴訟事件)は、特許権の消尽について、下記のような体系的にまとまった判断基準を示しており、 特許実務に与える影響が大きいと考える。

物の発明に係る特許権の消尽
1.原則:
特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特許発明に係る製品 (以下「特許製品」という。)を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を 達したものとして消尽する。

2.例外
(ア) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再 生利用がされた場合(以下「第1類型」という。),又は,(イ) 当該特許製品につき第三者により 特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場 合(以下「第2類型」という。)には,特許権は消尽しない。

物を生産する方法の発明に係る特許権の消尽
1.成果物の使用,譲渡等について
物を生産する方法の発明に係る方法により生産された物(成果物)については,特許権者又は特許権 者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内においてこれを譲渡した場合には,当該成果物について は特許権はその目的を達したものとして消尽する。

2.方法の使用について
特許法2条3項2号の規定する方法の発明の実施行為,すなわち,特許発明に係る方法の使用をする 行為については,特許権者が発明の実施行為としての譲渡を行い,その目的物である製品が市場に おいて流通するということが観念できないため,物の発明に係る特許権の消尽についての議論がその まま当てはまるものではない。

3.物を生産する方法の発明に係る方法により生産される物が,物の発明の対象ともされている場 合であって,物を生産する方法の発明が物の発明と別個の技術的思想を含むものではないとき, すなわち,実質的な技術内容は同じであって,特許請求の範囲及び明細書の記載において,同一の 発明を,単に物の発明と物を生産する方法の発明として併記したときは,物の発明に係る特許権が 消尽するならば,物を生産する方法の発明に係る特許権に基づく権利行使も許されないと解するの が相当である。

4.特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が,特許発明に係る方法の使用にのみ用いる 物(特許法101条3号)又はその方法の使用に用いる物(我が国の国内において広く一般に流通 しているものを除く。)であってその発明による課題の解決に不可欠なもの(同条4号)を譲渡し た場合において,譲受人ないし転得者がその物を用いて当該方法の発明に係る方法の使用をする行 為,及び,その物を用いて特許発明に係る方法により生産した物を使用,譲渡等する行為について は,特許権者は,特許権に基づく差止請求権等を行使することは許されないと解するのが相当であ る。

5.物を生産する方法に係る発明においては,特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が ,専ら特許発明に係る方法により物を生産するために用いられる製造機器を譲渡したり,その方法 による物の生産に不可欠な原材料等を譲渡したりした場合には,譲受人ないし転得者が当該製造機 器ないし原材料等を用いて特許発明に係る方法の使用をして物を生産する行為については,特許権 者は特許権に基づく差止請求権等を行使することは許されず,当該製造機器ないし原材料等を用い て生産された物について特許権に基づく権利行使をすることも許されないというべきである。


【参考サイト】
(1) 用尽理論と方法特許への適用可能性について
(2) 特許権の消耗と黙示の許諾
(3) 特許権侵害訴訟判決ガイド(5)
(4) 消尽論と修理/再生産理論に関する日米の判例の状況
(5) キャノン 対 リサイクルアシストのインクカートリッジ特許侵害事件

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