111. 知識、労働、マネー、権利と知的財産権

知識によって資源とエネルギーを制御する知的存在の活動が、付加価値を産む。 貨幣経済の 下では付加価値はマネーの流れと逆方向に流れていく。そして、付加価値を産み出す存在の流れ、付加価値の 流れおよびマネーの流れを、人為的に支配するものが権利という仮想的な存在である。
この権利は、付加価値の流れが、新たな付加価値を産むとともに、付加価値の流れが広く速く行き渡るように なるように、法によって設定される。
この付加価値の流れは、マクロに見ると、負のエントロピー(秩序や情報)の流れである。
太陽を起源とするエネルギーが地球に入り、地球から宇宙空間に赤外線として輻射されるというエネルギーの 流れの中で、エントロピーを宇宙に廃棄しながら、情報を生成しては、秩序を高度化させていく自己組織シス テムとしての地球が存在している。この地球の歴史の中で、複製機能を保有した結晶としてのDNAは、秩序 の源として活動を開始した。DNAの複製によって情報を広げ、地球の秩序を増大させていた段階から、情報 記録媒体に知識を記録し、情報記録媒体に記録された知識を用いては、様々な時と場所にて、付加価値の生産 と流通を行なうような段階に達した。
マネーと権利は、付加価値を産み出すものではなく、付加価値の流れおよび付加価値を産み出すものの流れを 支配するものである。資源とエネルギーは、増減しないという物理法則(物質保存則、エネルギー保存則)に 基本的に縛られているので、付加価値の源泉は結局のところ、知識ということになる。
したがって、マクロに考えると、知識を複製し、資源とエネルギーに知識を用いて制御することで、秩序を 増大させることが、付加価値の生産と流通にとっては好ましいはずである。
知識の支配権が知的財産権であり、知識の創造と活用を行なう存在は、現在のところ人間だけである。
知的財産権制度は、付加価値をもたらす知識の創造者に知的財産権を付与することが、人間によるさらなる知 識の創造を促進するとの仮説のもとに構築されている。
付加価値の創造と流通を促進するように、知的財産権制度は設計されねばならない。付加価値とは秩序の増大 であるし、人間の立場から見ると幸福の創造である。この観点からみると、知的財産権の活用も幸福の創造 に寄与するように行なわねばならない。競争が、付加価値の高い知識の選択をもたらすということがあるの だが、競争が知識の多様化を妨げたり、知識活用のチャンスの減少を大きくもたらすならば、全体としては競 争は不幸をもたらすことになる。したがって、付加価値の増大のためには、競争,協調,棲み分けの3つの要 素の調和が必要である。知的財産権制度や知財戦略にも、この観点が必要である。


特許戦略メモに戻る      前ページ      次ページ

(C) Copyright 2005 久野敦司(E-mail: patentisland@hotmail.com ) All Rights Reserved

戦略のイメージに合うフリー素材の動画gifを、http://www.atjp.net からダウンロードして活用しています。