94. 請求項記述言語(PCML)の将来展望

1.ビジョンの前提となる、PCMLに関する考え方
 (1) PCMLは請求項をコンピュータにも人間にも理解容易に、技術構造を記述するためのXMLのタグの ツリー構造をした体系である。ツリー構造であるので、指定した粒度で請求項を構造化したり、指定した粒度で 構造を表示することが可能となる。
 (2) PCMLは既存の全ての請求項を記述できるものである必要はなく、良い構造を有する請求項を記述で きるものであれば良い。
 (3) PCMLは技術分野によって細部は異なるタグを必要とする。しかし、技術分野によらず共通のタグも 多い。
 (4) PCMLは標準化される事が望ましい。しかし、請求項の構造の研究の進展やさまざまな技術の発生に 伴ない、PCMLの言語仕様がバージョンアップを繰り返される可能性が高い。このようなバージョンアップが 繰り返される状況においても、様々なアプリケーションでPCMLが請求項記述のインフラとして機能する必要 がある。
 (5) PCMLは請求項の技術構造の記述のみならず、機能設計ツールで作成された設計データの記述用にも 使用できるし、製品の技術構造を表現するためにも使用できる。
 (6) PCMLの基本的な使用価値は、次の5種類である。

    a. 技術構造の可視化機能
    b. 技術構造の評価機能
    c. 技術構造の比較機能
    d. 技術構造の結合機能
    e. 機能の結合を示す知識

2.PCMLの使用価値を実現する5形態における事業化の条件
PCMLの使用価値が、事業を実現する駆動力となる。この駆動力をもたらすには、さまざまな技術開発が必要と なるが、技術開発投資や市場開拓の投資をするにしても、事業が採算に乗るようになるための需要量や基盤条件に 関するクリティカルマスというものの見通しが必要となる。

 (1) 技術構造の可視化機能という価値を用いた事業
PCMLの標準化:不要, PCML化請求項のデータベース:不要

具体的には、着目した請求項をブロック図などで表示という可視化をすることで、請求項をわかりやすくするとい うものである。 可視化するために、操作者が行なうべき手間が少なければ、すぐにでも導入される。PCML化された請求項のデ ータベースの存在も必要ないし、PCMLが標準化されている必要もない。可視化の手間が少なく、判りやすい可 視化ができればそれで良い。事業化の敷居がもっとも低い分野であると思われる。パテントクリアランス(他社の 危険な特許の抽出や評価と対策実施)において、他社特許の請求項をわかりやすく表示するというニーズは非常に 高い。また、請求項を図示したものを並べたパテントマップにも使用できる。

 (2) 技術構造の評価機能という価値を用いた事業

PCMLの標準化:あるほうが良いが無くてもできる ,PCML化請求項のデータベース:不要

着目したPCML化請求項を分析して、特徴量を抽出し、その特徴量を用いて請求項の権利範囲の広さを評価した り、特許性を評価するものである。例えば、PCML化請求項から抽出した構成要素の個数が多いと権利範囲が狭 いと評価することもできるし、実施例に請求項で使用されている用語も、その用語の下位概念の用語も同義語も記 載されていない場合には、評価値を下げることもできる。適切なキーワード、例えば構成要素名や構成要素名に対 する修飾部で使用された用語を抽出できれば良い。

 (3) 技術構造の比較機能という価値を用いた事業

PCMLの標準化: 必要,  PCML化請求項のデータベース: 必要
(特許性の審査のためには過去5年分くらいの量のデータベース化 が必要であるが、自社特許のポートフォリオマネージメントのためには自社特許のPCML化請求項のデータベー ス化だけでOK)

比較機能には、包含関係、一致関係、部分一致関係の検出がある。公知文献に記載の請求項と着目している請求項 の比較によって、着目している請求項の特許性の評価ができる。PCML化請求項のデータベース内の各パテント の請求項の比較と、パテントの出願日の前後関係の分析を組み合わせて、基本特許の抽出ができる。注目している 製品や技術をPCMLで表現し、その製品や技術をカバーする請求項を有するパテントをPCML化請求項のデー タベースから抽出することもできる。これは、侵害摘発や、自社実施製品を有する自社特許を抽出するという特許 管理の基本を実現するために利用できる。

 (4) 技術構造の結合機能という価値を用いた事業

PCMLの標準化: 必要, PCML化請求項のデータベース: 必要

PCML化された複数個の請求項を組み合わせて新しい技術構造(発明)を創作するという使用ができる。発想支 援システムにおいて利用できる。

 (5) 機能の結合を示す知識としての価値を用いた事業

PCMLの標準化: 必要, PCML化請求項のデータベース: 必要

PCML化請求項の構成要素をエージェントに対応付け、エージェントの動的な組み合わせで、機能を実現してい く。エージェントと構成要素の対応付けをきちんと実行するためには、構成要素をエージェントに対応付ける概念 辞書の存在も必要となる。

3. PCMLが革新的な影響を与える分野

PCMLは特許業界においては、発明の創出、特許調査、侵害鑑定、侵害摘発、パテントマップの作成、特許価値 評価、パテントポートフォリオマネージメントの効率化と高度化をいう効果を与える。
また、研究開発においても、発想支援などの高度化と効率化を行なえるようになる。 事業分野においては、事業提携や技術提携の相手方の探索にも活用できる。
マイクロライセンシング技術やシステムが実現でき、それをPCMLと組み合わせると、薄く広く特許権者はライ センス収入を得ることができるし、研究開発においては安いロイヤリティさえ払えば、自由に特許技術を用いるこ とができるので、研究開発のスピードが格段にアップしたり、技術提携ができるようになる。

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