372. IoT産業革命では、再興メカニズムの埋め込みが重要である

注) 本論考のPDFファイル

IoT産業革命では、マシンの機能はソフトウェアと知識情報が中心を担うようになるとともに、人間はマシンが構成する情報空間を介して現実空間と接することが、 ほとんどになります。
いわゆる、サイバーフィジカルシステム(CPS)が、人間活動のあらゆる場面に浸透するということです。



上図の出典: http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shojo/johokeizai/report_001.html

その結果、社会を構成する機能の大部分は、ソフトウェアと知識情報が担うようになります。

しかも人工知能(AI)が、人間の介在なしに、機械学習によって多様なソフトウェアや知識情報を自動生成するようになりますので、社会の機能の多くの部分が、それらの 自動生成されたソフトウェアや知識情報をコアとする「ブラックボックス化された存在」になっていきます。
そうなりますと、株式の自動取引ソフトの集団行動が、ほんの小さな出来事がきっかけで雪崩現象的な市場崩壊(フラッシュクラッシュ)をもたらす場合(参考サイト4,5)と同じく、 ネットワーク化されたAIが集団パニックを起こしたり、戦争やテロやサイバー攻撃や大規模自然災害などで、社会の多くの機能が喪失する場合もあり得ます。
そのような事態が発生した場合、IoT産業革命後の社会も産業も再興できなくなったり、再興までに耐えられないほどの長期間を要し、その間に国も社会も大変に衰退する という可能性が現在よりも格段に増加すると思います。
IoT産業革命後の世界では、社会にも産業にもブラックボックス化された部分が拡大するからです。そして、ブラックボックスの中身が判らないので復旧できないからです。

例えば、ソロバンなら動作原理と材料と製造方法は、ソロバンを見るだけで簡単にわかり、短期間で再興できますが、電卓ですとブラックボックス化されたマイコンや液晶デバイスを 主要部品として構成されていますので、中身が理解できませんし、理解できたとしても、その生産のためには、 裾野の広い膨大な知識と組織体制を再興する必要がありますので、ゼロからの再興は大変に困難となるためです。

ゼロからの再興が必要と言う重大事態ではなくても、広く普及した特定の型式の、例えばAIやルーターがサイバー攻撃などによって、一斉にダウンするという事もあり得ることです。 そうなった場合にでも、ダウンしたサブシステムの代替物を早期に立ち上げて、必要な個所に代替物を迅速に組み込めるような知識と組織体制をIoTシステムの 中に用意しておくことが必要と思います。これが、再興メカニズムを埋め込まれたIoTシステムです。

IoT産業革命によって、社会システムがIoT、AI、ビッグデータ処理、ロボットに依存する度合いが増えるほどに、堅牢で機動的な再興メカニズムの必要性が高まると 考えます。(参考サイト1,2)
再興メカニズムは、マシン系と人間系の両方に埋め込んでおくことが必要となります。(参考サイト3,6)
次のとおりです。

【マシン系での再興メカニズム】

(1) 自己診断
(2) 自己診断の結果を用いた自己修復(参考サイト1,2)
(3) 自己修復ができない場合に、不具合個所の切断による縮退運転
(4) 正常時の動作データを保存しておいたものを教師データとして活用して、応急措置用部品に機械学習させて自己修復に用いる(参考サイト3)
(5) 在庫予備品の活用による復旧
(6) 3Dプリンタなどの汎用製造マシンを用いた自己修復用の部品の自動生産

【人間系での再興メカニズム】

(1) 伊勢神宮での式年遷宮のような儀式として、旧世代の技術と道具を維持継承(参考サイト6)



上図の出典: http://www.miraikan.jst.go.jp/sp/sekai1/treasures/181.html

(2) 奇跡的に発見された調合やレシピや微生物を秘伝として、一子相伝や企業秘密として継承(例:カルピス菌)
(3) 自動化の割合が少ない旧世代のシステムを応急的に復帰させ、そこから現世代の状態を再興するための人材とシステムの継続的確保


【参考サイト】

1. 自然治癒力
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E7%84%B6%E6%B2%BB%E7%99%92%E5%8A%9B
2. IBM、自己修復機能を構築するソフトウェア・ツールを発表
http://codezine.jp/article/detail/576
3. デジタル化による動きを伴う伝統技能の保存、伝承
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/attach/1332159.htm
4. 事務局説明資料(取引の高速化)
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/siryou/20160513/02.pdf
5. <相場の見方、歩き方>フラッシュ・クラッシュ―超高速取引がもたらした教訓
http://www.morningstar.co.jp/msnews/news?rncNo=1671363
6. コラム 式年遷宮に見る技術継承と技術者確保
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h25/hakusho/h26/html/n1233c20.html



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