312. 「技術としての発明の評価」と「特許権としての発明の評価」の区別が必要

社内の発明者から、職務発明として発明が知的財産部門に届け出られる。その発明を知的財産部門は評価して、その発明の取り扱いを決定する。

企業にとって、発明の評価の観点には、主に次の2つがある。

第1の観点は、自社製品や自社のサービスや自社の生産システムで実施することによる、FPS又はQCDの向上への寄与を評価するものである。
これは、発明を技術として評価するものである。
ここで、FPSとは、機能Function,性能Performance,仕様Specificationである。
QCDとは、品質Quality,コストCost,納期Deliveryである。

第2の観点は、自社製品や自社のサービスや自社の生産システムなどを含んで構成される自社事業の維持・発展のために、他者(競合、顧客、パートナー等) の活動を制御する手段である特許権として評価するものである。

特許権として評価する場合、他者の活動を制御する手段として評価するのであるから、当然に他者実施の可能性が高い特許権を高く評価する事になり、 自社実施の有無は特許権としての評価とは無関係となる。すなわち、自社事業の維持発展のためにその活動を制御したい他者(競合、顧客、パートナー等) が、その特許権の権利範囲内に含まれる実施行為を(1)現にしているか、(2)将来においてする可能性が高いか、(3)したいと欲するか、という事が 重要となる。

自社実施している発明の中には、他者が実施する可能性が高いものもあり得る。しかし、だからと言って、自社実施の有無で特許権としての評価をすべき理由 にはならない。自社実施の事実は、「他者も自社と同じような事をする」という仮説に基づいて他者実施の可能性を示唆する状況証拠の1つにしか 過ぎない。他者実施の可能性を予測したり調査することなしに、自社実施だけを基準に特許権を評価する「自社実施特許中心主義」を採用する事は、 知的財産部門としては、大変に楽ではあるが、事業貢献もできず、組織能力も劣化するという事態を招く。

発明を技術として評価するという観点では、その発明でもたらされるFPSやQCDと同様又は類似のFPSやQCDをもたらす他の技術と比較し、どちらの技術が優れているのかを認識 することが必要である。そうすることで、発明が技術として自社の事業に貢献する度合いも判明する。

その発明でもたらされるFPSやQCDと同様又は類似のFPSやQCDをもたらす他の技術も権利範囲に含むような特許権を獲得し、それを活用する事が望ましい。 特定の機能の実現手段の全てを権利範囲に含む特許権は、その特定の機能に関する「基本特許」と言える。 事業に寄与する機能に関する基本特許の獲得と活用を目指すものを「基本特許中心主義」と言う。基本特許中心主義の実践には目利き能力や予測能力や 高い抽象化能力や具象化能力、広く深い調査能力が必要となる。楽なスタイルではないが、やりがいがあるし大きな成果をもたらす。

すなわち、知的財産部門は、技術としての発明の評価と、特許権としての発明の評価を区別して、それぞれの評価をきちんと行ない、 自社実施特許中心主義に堕落せず、基本特許中心主義を目指すべきである。
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