303.出現から20年以内の機能を多数含む商品の事業は、自社実施特許中心主義では守れない

商品Aを構成する機能を2つの群に別ける。すなわち、この世界に出現して20年を経過していない機能の群(新機能群という)と、 この世界に出現して20年以上を経過している機能の群(旧機能群という)に別けるのである。(特許権の権利期間は、出願の日から20年までしか存在できないため)

新機能群をN(1),N(2),−−−,N(f)とする。
旧機能群をL(1),L(2),−−−,L(g)とする。

新機能群の各機能については、その機能をどんな技術で実施しても必ず侵害してしまう基本特許が活きて存在する可能性がある。
しかし、旧機能群については、その機能に関する基本特許が活きている可能性は無い。
このような状況で、X社は商品Aの新機能群の各機能について、自社実施技術の範囲だけは確実にカバーする特許権を取得できたとする。

すなわち、X社は新機能群であるN(1),N(2),−−,N(f)において、自社実施技術であるTx(1),Tx(2),−−,Tx(f)の範囲だけを カバーする特許権の群であるPat(Tx(1)),Pat(Tx(2)),−−,Pat(Tx(f))を取得した。

このような状況で、X社の競合企業であるY社は、新機能N(1)についてだけは基本特許であるPat(N(1))を取得したとする。
そして、Y社の商品Bでは新機能群について、自社実施技術として、Ty(1),Ty(2),−−,Ty(f)を用いた。

X社が新機能群について取得した特許権の群Pat(Tx(1)),Pat(Tx(2)),−−,Pat(Tx(f))は、Y社の商品Bについては 全く使えない。新機能N(i)に関するX社のパテントであるPat(Tx(i))は、Y社による実施技術Ty(i)をカバーしないからである。 ただし、i=1,−−,fである。
しかし、Y社が新機能N(1)について取得した基本特許であるPat(N(1))は、X社の実施技術であるTx(1)をカバーする。

その結果、Y社はX社の商品Aに対して、基本特許権であるPat(N(1))を権利行使できるが、X社にはY社の商品Bに対して権利行使できる特許権が無いことになる。
こうなると、X社は新機能群のそれぞれについて特許権を取得しているにもかかわらず、Y社からの特許権Pat(N(1))による権利行使を受けると、 商品Aの製造販売を継続すらできなくなる。すなわち、X社は自社実施すら確保できないばかりか、競合企業に対して自社の特許権の行使もできない事になるのである。

自社実施技術の特許だけを取得するX社が競合企業から基本特許権による権利行使を受ける確率pは、商品Aを構成する新機能の個数であるfが大きいほどに大きくなる。

1つの新機能において競合企業のどこかが基本特許を取得する確率をp0とする。
そうすると、f個の新機能のどれかで競合企業のどこかが基本特許を取得する確率であるpc=f×p0となる。

すなわち、自社実施特許だけを取得するX社の商品Aは、pc=f×p0に比例する確率で、他社の基本特許権の権利行使を受けることになると推定できる。

これが意味する事は、次のとおりである。

● この世界に出現して20年を経過していない機能が商品に含まれる個数に比例して、そのような機能に関する基本特許権の権利行使を受ける確率が増え、 自社実施技術特許を取得しているだけでは、このような基本特許権の行使に対抗できず、事業がつぶれる可能性がある。
● 自社実施特許中心主義にて自社事業を確実に守れるのは、商品が、前記の旧機能群だけで構成されていて、しかも、自社実施技術が他社実施技術よりも市場における競争力が圧倒的に強い場合だけである。

すなわち、特許戦略のパターンは、新機能群の個数f,旧機能群の個数gの値の組合せでも大きく変わる。

(f,g)=(数個以内,0)の世界とは、例えば物質特許が重要な医薬品の世界であろう。
(f,g)=(0,数個以内)の世界とは、新機能の出現余地が全くなく単純な構造の物であり、例えば「しゃもじ」のような単一材質構造の日用品の世界であろう。
(f,g)=(数十個,数十個)の世界とは、小規模な電気機械器具であり、例えば「スピーカー」のような分野の世界であろう。
(f,g)=(数百個,数千個)の世界とは、中規模なシステム製品であり、例えば「プリンター」や「ハードディスク」のような分野の世界であろう。
(f,g)=(数千個,数万個)の世界とは、大規模なシステム製品であり、例えば「自動車」や「パソコン」や「複写機」のような分野の世界であろう。

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