29. 知財立国論に必要な新たな視点

特許制度の目的は産業の発達です。特許法第1条は、次のように言っています。

第1条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて 産業の発達に寄与することを目的とする。

ここで、特許業界のプレイヤーが、特許制度の中で果たす役割をみていきますと、知 財立国論はどうあるべきかが見えてきます。
●発明者(研究開発、商品開発の部門の技術者であることが多い):   産業の発達の原動力である発明を行ないます。発明なくして、特許制度は無意味 です。
●知財部: 発明を自社の事業に貢献できる特許権や、技術戦略の核となる技術思想 にまとめていきます。また、事業進化のストーリ、 技術進化のストーリを洞察して、技術企画や事業企画に重要な中長期のビジョンを与 えます。特許におけるリスク評価と管理も します。
●事業企画部: 事業を企画し、事業を立ち上げていきます。その時、特許権は事業 の武器の一つとして利用することもあります。 また、事業進化のストーリは事業企画の方向性の設定に大きな役割を果たします。
●技術企画部: 技術開発の方向性を示す技術戦略を企画します。その時、大きな応 用分野を切り開く技術となる発明は、非常に 重要です。技術進化のストーリは技術企画の方向性を設定するのに大きな役割を果た します。
●営業部: 顧客に製品を販売したり、顧客ニーズを把握します。発明の母となる顧 客ニーズや社会ニーズのセンサです。
●特許事務所: 発明を特許権にします。知財部の依頼に応じて、プロフェッショナ ルとしてのサービスを提供します。ただし、 個別企業の戦略にまで踏み込むことは稀です。
●特許調査会社: 特許を評価するための公知技術調査などのサービスをします。
●特許法の学者: あるべき特許法制度を構想します。現在の特許法制度を解釈しま す。
●特許庁: 特許出願を審査して、特許権を付与します。 特許法制度を改善してい きます。
●経済産業省: 産業政策としての特許制度や周辺の制度を構想し、構築していきま す。

特許業界の構造をみると、知財立国論は、特許法制度や周辺の法制度を変更すること に過度に注力するのではなく、第1には発明 行為の活発化と高度化を促すことに注力すべきです。なぜなら、特許システムの入力 は発明であるためです。
第2には、発明は特許権という形に加工されて権利として活用されて、発明を活用し た事業を強化し、さらなる発明を促して、産業の 発達に貢献するというルート以外にも、発明が技術戦略や事業戦略の方向性を設定す るための技術思想に加工されて産業の発達 に貢献するという特許戦略のルートもあり、このルートの方が産業の発達への影響力 が大きいかもしれない事に気付くべきです。 これからすると、知財立国論は研究開発のありかた、技術者の処遇、知財部の仕事の あり方の革新、知財部員の処遇などについて 、さらに突っ込んだ議論を必要とすることがわかります。
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