260.クロスライセンス企業間のジレンマ

製品設計と事業遂行の自由度を確保するために市場で競合する企業が包括クロスライセンスをして、せっかくの有望商品分野なのに、お互いに特許権の行使ができないため、 市場で安売り競争を開始してしまい、その有望商品をコモディティ化させて、どちらの企業も利益獲得できず、さらには研究開発投資の 余裕もなくしてしまうという事が起こり得る。(自由度確保のための包括クロスライセンスがもたらす基幹部品外販と、モジュール化の2つによるコモディティ化の罠)

すなわち、X社とY社は世界の最先端で、ある分野の技術開発を行ない、完成品AおよびAの基幹部品Bをほぼ同時期に開発したとする。 しかも、X社とY社はだいたい同レベルの特許権を完成品Aおよび基幹部品Bの分野で多数取得したとする。
このような場合、X社とY社はクロスライセンスをする場合が多い。
このような状況で、X社が完成品Aと基幹部品Bの事業の担当事業部(または担当するグループ企業)を分けて事業を推進する体制をとると、X社での基幹部品Bの事業を 担当する事業部は、基幹部品Bをコストダウンして広く外販するようになる。
そうすると、基幹部品BをX社から安く購入して、完成品AをX社やY社よりも安く製造・販売する新興工業国の企業が発生するようになる。 そうなると、X社もY社も完成品Aの売り上げも利益も減少してしまうようになる。
そうこうしているうちに、X社は完成品Aの事業から撤退し、基幹部品Bの事業だけに特化し、基幹部品Bのコストダウンを通じた大量 生産と大量販売を行ないだすと、完成品Aの事業は基幹部品Bを購入して完成品Aを安く製造販売してしまう新興工業国の企業にシェアを 奪われてしまう。その結果、Y社も最後には完成品Aの事業から撤退し、基幹部品Bの外販事業だけに事業を絞ってくる。 そこからは、基幹部品Bについても、クロスライセンスしているので相手企業にも、相手企業の顧客にも特許権の行使ができず、コストダウン 競争するしかない状況に陥ったX社とY社による貧乏暇なしという基幹部品事業が行なわれていく。

いくら市場の導入期を切り開き、強大な技術と特許権を保有していたとしても、横並びで同じような事業をして、しかもクロスライセンス でお互いに特許権行使の道をふさいでしまったために、無意識にお互いの技術開発投資の果実を無にしてしまい、技術的に高度な基幹部品 を作れないが、コモディティ化した他の周辺モジュールを安く調達し、そこそこの品質の完成品に安く組み立てられる新興工業国の企業の 事業を支援するボランティアに一緒に仲良くなってしまうのである。
X社もY社も完成品Aの事業だけをして、基幹部品Bの外販をせず、基幹部品Bの製造・販売をする他社に積極的に特許権を行使していれば 良かったのである。
それが、X社とY社のどちらか一方でも、基幹部品Bの外販をしてしまうと、クロスライセンス関係にあることが原因で、それを他方の企業 は特許権を行使して止めることができず、結果として双方共倒れに陥ってしまう。これを、クロスライセンス企業間のジレンマと呼ぶ。

クロスライセンス契約の中で、「基幹部品の外販行為」は、相互に許諾行為に入れなければ良いのである。 また、クロスライセンスした特許権を侵害する第三者の情報を交換することなども、クロスライセンス契約に入れておけば、前記したクロスライセンス 契約のデメリットのほとんどが消滅すると思われる。
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