259.基幹部品事業部と完成品事業部のジレンマ

基幹部品と完成品とで事業部が異なることが特許権行使を縛り競争力低下を招く仕組みがある。その仕組みは次のとおりである。

完成品Aの基幹部品がBであるとする。X社では完成品Aの事業はSA事業部が担い、基幹部品Bの事業はSB事業部が担っているとする。 (完成品Aと基幹部品Bの担当をするグループ企業を分ける場合も、本質的には同じである。)
そうすると、SA事業部は完成品Aの売り上げを伸ばすために、基幹部品Bの調達コストを下げようとして、競合他社であるY社からでも 基幹部品Bを購入しようとする。また、SB事業部は基幹部品Bの売り上げを伸ばすために、基幹部品Bを完成品Aに関する競合他社である Z社にも販売しようとする。

ここで、Y社が製造販売している基幹部品Bが、X社の特許権を侵害していたとしても、X社はなかなか特許権をY社に権利行使できない。
なぜならば、X社のSA事業部が、安い基幹部品BをY社から購入できなくなることを恐れて、Y社に対する特許権の行使を反対するからである。

また、Z社が製造販売している完成品Aが、X社の特許権を侵害していたとしても、X社はなかなか特許権をZ社に権利行使できない。
なぜならば、X社のSB事業部は、X社が特許権をZ社に行使すると基幹部品Bの販売をZ社にできなくなると恐れて、Z社に対する特許権の 行使を反対するからである。

このような状況となると、基幹部品BをX社以外の色々な企業も製造販売するようになっていく。そして、基幹部品Bのコストダウン競争が発生する ようになる。そうすると、完成品Aの競合企業であるY社は基幹部品Bの調達コストを下げ、完成品Aのコストダウンをしてくる。 その結果、X社のSA事業部は完成品Aのコストダウンをするために、基幹部品Bをさらに安く調達する必要が生じ、自社の特許権を侵害して自社の SB事業部の競合企業になっている企業Z社からも基幹部品Bを購入する。
完成品Aについても、基幹部品Bについても、このような仕組みでコストダウン競争が激化し、X社は完成品Aでも基幹部品Bでも利益を獲得できなくなっていく。

このような現象は、基幹部品の事業部と完成品の事業部がシナジー効果を発揮せず別個に事業活動をしていながら、特許権の行使についてだけは 相互に牽制していることから来る矛盾が原因で発生するジレンマであると考える。
本来X社は、基幹部品Bは外販せず完成品Aだけを外販するか、基幹部品Bの外販をするが完成品Aの事業をしないというようにしておけば、適切に特許権行使もできて、 高い利益率を確保できていたはずである。

基幹部品とその完成品の間のシナジー関係や、基幹部品外販が競合企業に与える影響を考慮せず、単純に担当する事業部門またはグループ企業を分けて運営した事が失敗の原因である。

【参考サイト】
1. 知的財産による競争力強化専門調査会(平成20年度第4回)[資料4] 過去の特許・標準化戦略の事例

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