19. 官公庁が特許権を有する企業に優先発注することで産業競争力が強化できる

日本の知的財産立国のための戦略を考える上で、「顧客は特許権者に製品やサービスを優先的に発注するか?」 という命題は、大きな意味を持ちます。特許権などの知的財産権はその権利者に独占排他権を与えます。 しかし、独占排他権があるからと言って、顧客が注文をくれなければ、何の事業の役にも立ちません。企業からすると 競合企業を知的財産権などを用いて排除するよりも、まずは顧客を獲得することが第一優先事項なのです。 品質、コスト、レスポンスのスピード、サービス、デザインに優れていれば、その製品に関して特許権を有していない 企業であっても、特許権を有している企業を尻目に事業を繁栄させていることもよくあることです。 特許法からすると、侵害品の使用行為も侵害行為ですから、侵害品を購入した顧客に対しても、特許権者は権利行使 を法的には実行可能です。しかし、商品のライフサイクルが短く、次から次に新しいモデルを開発しては投入しなければ ならない業界では、特許侵害訴訟で争って勝ったところで、事業の主戦場は他に移っています。そこでは、特許権は まだ存在していないということにもなります。そうすると、特許侵害訴訟で顧客を含めて攻撃した場合、新しい機能や 性能の製品での事業において、もはや特許権がなくなった時に、過去の顧客との対立が直接的に事業に悪影響を与え るということも発生しえます。このような事情もあり、なかなか特許権を武器に事業を伸ばしていけないということになって います。公共事業や官庁への物品やサービスの納入を行なう業界では、受注のための大きな要素に、「天下りの受け 入れ」があります。これは、過去から数々の不祥事の温床になっていることと、そのような業界の競争を阻害し、高コスト 体質を温存して、国民負担を増大させています。もしも、公共事業や官庁への物品やサービスの納入業者の選定が、 その公共事業や物品やサービスの最重要目的や特徴となるキャッチフレーズを実現する上で最も関係の大きな特許権 の権利者を優先して行なうという方針が実行されれば、日本の産業競争力を強化することができます。 なぜなら、発注側の政府は発注先を特定の特許権者に固定しないためにも、発注内容をどんどんと高度化させていく 必要が生じるので、政府が日本のために構築するインフラが急速に進化していきます。 受注を希望する企業は、技術開発をして有力な特許権を取得することが官公庁からの受注につながるので、競争して 良い技術の開発をしていきます。また、公共事業や官庁への物品やサービスの納入業者の選定が、 その公共事業や物品やサービスの最重要目的や特徴となるキャッチフレーズを実現する上で最も関係の大きな特許権 の権利者を優先して行なうという方針を実行すれば、大企業ではなくても、的をついた技術開発を先行してやった ベンチャー企業にも大きな受注のチャンスが訪れます。このように、官公庁が特許権者を優先した発注行動をとるように なれば、技術に優れたベンチャー企業の育成と、社会インフラの高度化と、ローコスト化が同時に図れます。 米国ではDARPAを通じて、防衛力強化のためと称して多くの資金がベンチャー企業の研究開発費に流れています。 それが、米国のIT産業やバイオ産業の強化に寄与しています。特許権を有する企業に優先して、官公庁が発注する という方針を日本政府が実行すれば、特徴的な技術はあるが、販売チャネルもサービス体制も大企業には見劣りがする という新興企業を育成でき、日本の産業競争力強化につながります。
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