87. 特許権を活用する担当部署の士気と知識・能力
まず、特許権の活用を担当する部署である知財部が、「特許権の活用」を自部門の重要な任務であると認識してい なければならない。特許権をつくる事ばかりに熱中して、特許権の活用を怠っている状況が長く続くと、「特許権 の活用」とは、知財部においては、例外的なマイナーな業務であるとみなされるようになる。しかも、できるだけ 「特許権の活用」は避けるべきであるとの価値観や論理すら発生してくる。特許権の活用を怠っている状況を正当 化するための価値観や論理である。また、「特許権の活用」を怠っている状況が長期化すると、特許権の活用のた めの知識や、ガイドラインや人材や機材も持てない状況となる。そのため、さらに特許権活用は困難な業務となり 、実行されなくなる。その結果、特許権活用のための上記の条件は整備されず、どんどん衰退していく。特許権の 活用は、特許権の構築とは異なり、勇気と決断力と交渉力と判断力を必要とされる。受け身型で、問題先送り型の 官僚主義的なメンバーには、なしえない業務である。特許権の活用における知財部門の士気を高めるためには、特 許権活用についてのしっかりとした大義名分を打ち立てる必要がある。すなわち、特許権活用を正当な誇るべき業 務であるとする納得性の高い論理が必要である。しかも、その論理がその企業の企業理念に合致するものでなけれ ばならない。また、失敗のリスクの高い「特許権活用業務」を担当する者について、リスクにチャレンジして成果 を出させるための人事評価と処遇が重要となる。そのような、評価の体制がなければ、リスクの小さい「特許権の 構築」の業務ばかりを知財部のメンバーが行なうようになる。

特許権活用業務が行われない状況で、特許権構築業務ばかりをやっていると、特許権が余るようになる。特許権が 余ると、特許権の維持には年金納付などの費用が必要になるので、構築した特許権を活用する事無く放棄するよう にもなる。特許権活用をせず、特許権構築と特許権放棄のみを繰り返していると、知財部門の士気は地に落ちる。
特許権活用に必要な知識としては、特許権活用に伴うリスクの分析と評価の手法についての知識,訴訟についての 知識(民事訴訟法や訴訟費用,裁判の運用の実態に ついての知識,実施料の相場についての知識)がある。また、特許権活用のための社内決裁の手続や、決裁権限者 の見極めも必要になる。さらには、特許権活用に向けた社内体制の構築と運用についての知識も必要となる。これ は、マネージメントのレベルの知識である。さらには、社外の弁護士や弁理士さらには調査会社の人員を指揮して 、特許権活用のプロジェクトを実行する事ができねばならない。また、特許権行使の相手企業の体制や動向の見極 めに基づいた、攻撃や防御の戦術の企画・立案・実行・検証が必要である。
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