62. 知財バブルを越えて(米国を凌駕する知財戦略への道)

私のみるところ、知財バブルは知的財産を担保に資金調達をすることのニーズと、そ れを実現可能とする信託業法の改正 などの動きに、知財価値評価の技術が追いついていないことに1つの原因があると思 います。

また、知的財産と知恵を混同し、「知的財産を活用すること=知恵を活用すること」 と把握して、中国との競争に勝つためには 知的財産が大事であるというように考え、生き残りのためには知財を大事にしようと いう雰囲気が企業経営者層に生まれ、 それが、知財立国という国家戦略ともあいまって、知財ブームを起こしているのに、 知財を知恵に転換する技術を開発していない ところに、もう1つの原因があると思います。

すなわち、知財に関するニーズが高まっているのに、知財活用や知財評価のしっかり とした技術や体制が整っていないまま、 ニーズの高まりに触発された多くの人々が知財業界に殺到して、知財バブルを形成し ていると思います。

日本の現在の知財立国の戦略は、米国に追いつこうというレベルのものでしかありま せん。まずは、知財最先進国である米国に 追いつこうというのが、知財戦略事務局の考えです。しかし、同じ考えで、中国も韓 国も走っています。

知財戦略で、15年も米国に遅れていた日本が、米国に追いつくことだけを考えて、 中国などと同じように米国の背中を見ながら 走っているだけでは、勝つ戦略にはならないと思います。

アメリカを越える知財戦略を立案し、実行しなければならないと考えます。
次に、アメリカを越える知財戦略のポイントを述べます。

1. 日本人の発明能力を高める教育をする。

質の高い発明が大量に発生することがなければ、いくら知的財産権の法制度や体制整 備をしても、加工する原材料の入荷のない 工場のようなものですので、知財立国にはなりません。

日本人の発明能力を高める教育は、次のようなものです。

 (1)「発明的問題解決」という学科をつくり、優秀な発明者を教師として配置 し、発想支援システム利用法、問題抽出手法、 各種の発想法、瞑想法、論理思考法、アイデアの表現とプレゼンテーション方法、公 知技術調査との比較方法などを教えます。 また、発明が人類社会に果たす役割や、歴史への影響を教え、発明をもとに立派な企 業を起こした経営者の実話を教えます。 さらに、発明実習を何度も繰り返し行なわせ、特許権を取得できる発明をすることを 奨励します。

 (2)大学の入学試験の必須科目に「発明的問題解決」を入れます。

2. 発明者が報われるための法整備をする。

いくら、日本人の発明能力を高める教育をしても、発明者が十分に報われる社会を形 成できなければ、知財立国の基礎を形成する 発明者の活動は活発化も高度化もしません。

発明者が報われるために、次のようなことをします。

発明者に、自己の特許発明について発明時の所属会社などを退職後に1回だけ行使で きる実施許諾権を与える。 この実施許諾権は、発明者が職務発明についての特許を受ける権利を自己の所属する 会社などに譲渡をしても発明者に残る権利 であり、譲渡不能とする。この実施許諾権を行使した発明者またはその相続人は、発 明の譲渡対価が相当であったかどうかについて 争うことはできないものとする。

このようにすると、発明者と所属企業が相当の対価について争うことが少なくなる し、企業は優秀な発明者の処遇を厚くして、退職を 防止するようになる。

3. 特許情報(特に請求項の情報)をコンピュータが理解可能な知識情報に変換し て、全く新しい活用をする。

 (1) 請求項を構成する構成要素に対応する技術や製品の情報をデータベース化 しておき、そのデータベースと請求項を組み合わせて、 特許発明という新規な物の事業を立ち上げるための企業や大学の連携の仲介情報とす る。
 (2) 請求項は、求められる機能や、解決すべき課題の解決手段の実現に必要は 機能の組み合わせや、方法の実行手順を記述した ものでもある。したがって、請求項をユビキタスネットワークやWebサービスにお いて必要な問題解決機能のための知識情報として、 コンピュータで利用する。
特許戦略メモに戻る      前ページ      次ページ

(C) Copyright 2004 久野敦司(E-mail: patentisland@hotmail.com ) All Rights Reserved

戦略のイメージに合うフリー素材の動画gifを、http://www.atjp.net からダウンロードして活用しています。