42. 学問化の陥りやすい危険性と技術経営、知財学

物事を体系的にまとめ、論理的に説明したり、他人に知識として伝えることができる ようにすることは非常に価値のあることです。しかし、忘れてはならないことは、学 問が行なう体系化と知識化には、1つの大きな危険性があるということです。志、哲 学というものが捨象されてしまうということです。成功した経営や失敗した経営、成 功した特許戦略や失敗した特許戦略を分析したり、共通の事柄や成功に必要な知識を まとめて体系化するのは良いのですが、知識や人や物を活用したり、育てていく主体 である人間の志と哲学、決断を行なうときに必要な人間観と社会観というものが、学 問化の過程でこぼれ落ちることが多いということを認識しておく必要があると思いま す。

志や哲学は、知識よりもさらに上位にあるものであり、知識を取捨選択し活用し、知 識がなければ創造するという原動力となるものです。日本には優れた先達が多くいま したし、現在も輩出しています。メーカーの創業者には技術経営という言葉がなかっ た頃から、それを実践していた人が多く居ます。ホンダの本田宗一郎氏、ソニーの井 深大氏、オムロンの立石一真氏、浜松フォトニクスの晝馬輝夫氏など、他にも多くの 優れた経営者が技術経営を実践してこられました。

志や哲学は、知識として伝承できるものではなく、自分で追い求めて掴み取るもので す。先達の言葉や業績に触れて、その中から自分が活用できる形で掴み取るものだと 思います。

技術経営や知財学というものを、学問の形にまとめたり、教育プログラムの形にまと めることは、価値あることなのですが、志や哲学を自ら磨くことを忘れないようにす ること、多くの日本の偉大な先達がすでに実践していたことであることを認識する必 要があると思います。
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