314. 請求項の設計方法

請求項の設計は、多面的な観点での仮説と検証のサイクルを何度も繰り返しながら行なうものである。仮説と検証のサイクルを繰り返しながら 粘土細工のオブジェを作り上げるようなものである。

ステップ1: 請求項の設計の前に、次の6つの仮説を設定する。仮説の初期内容は発明者からの発明説明書をもとに設定するが、次のサイクルで このステップに戻ってきたときには、発明者が最初に考えたものとは違った内容となってくる。発明者が自分の発明はそんなにも凄いのかと自分で 驚くことになる場合もあるし、大したことがなかったと落胆することもある。

【請求項設計における仮説】

1. 課題に関する仮説
2. 構成(課題を解決するための手段)に関する仮説
3. 作用(構成から発明の効果をもたらす因果構造)に関する仮説
4. 発明の効果に関する仮説
5. 技術進化と代替技術に関する仮説
6. 事業および市場の現状と将来に関する仮説

ステップ2: ステップ1で設定した6つの仮説に基づいて、請求項を設定・変更する。ここからが知財スタッフの腕の見せ所の開始である。
発明説明書がしっかりしていない場合には、最初のサイクルでのステップ1から知財スタッフが色々と腕をふるう場合もある。

請求項を記述するための文法(請求項記述言語:PCML)に基づいて請求項を記述する事が、良い請求項の設計に有効である。その文法の概要は、次のとおりである。

請求項を、1個以上の構成要素+発明の名称という形式で記述する。
そして、構成要素は0個又は1個の命題+構成要素名という形式で記述する。
そして、命題は、1個以上の格成分+動詞という形式で記述する。(なお、格成分は格文法に基づいた概念である。)
そして、格成分は、命題の中の動詞部分が要求する名詞句であり、動詞部分で表現される作用の各種の前提条件を記述する。
このような前提条件の種類としては、次のものがある。
「対象」,「条件」,「時期」,「始点」,「着点」,「媒介」,「原料」,「比較」,「用途」,「付帯状況」

請求項を記述するためには、次の事を認識しておくことが大変に重要である。
(1)発明の効果とは、何らかの良い状態の実現である。
(2)良い状態を実現するものは、状態に影響を与える能力を持ったものであり、それは技術的にはエネルギー,物質,力,情報である。
(3)したがって、請求項の構成要素は、良い状態をもたらすエネルギー,物質,力,情報の流れをもたらすように選択されて組み合わされる。
(4)請求項の構成要素間の相互作用も、請求項で示される構成と外部世界との相互作用も、エネルギー,物質,力,情報によって実現される。
(5)発明の本質を見抜くためには、エネルギー,物質,力,情報の流れに着目すべきである。

仮説検証サイクルの初期段階では、構成要素名の列挙という簡単なものでも良いし、1つの構成要素を1つのブロックで示したブロック図でも良い。 仮説検証サイクルが深まるにつれて、各構成要素での説明部分である命題を詳しく具体的に記述し、他の構成要素との関係や発明の効果の出現までの因果構造(エネルギー,物質,力,情報の流れ)を 格成分と動詞を用いて明確に説明できるものにしていく。

ステップ3: 次の6つの観点によって、設定された請求項を検証する。この検証段階は、知財スタッフの独創能力や予測能力や事業センスや技術力が必要とされる。
逆に言うと、独創能力や予測能力や事業センスや技術センスが不足した知財スタッフがこの検証段階を実行すると、価値の低い請求項を見抜けず、価値の高い請求項 に進化させるためのプロセス無しで検証段階を通過させてしまう。

【検証の観点】

1. 請求項にて記述された構成をもとに、発明の効果を発揮する因果構造である「作用」を説明可能であること。
2. 請求項に記述された構成に、発明の効果の発揮に無関係な限定条件や構成要素が含まれていないこと。
3. 請求項に記述された構成が、公知技術を含まない範囲で、できるだけ上位概念で記述されていること。
4. 請求項に、「あいまいな表現」,「未定義用語」,「わかりにくい表現」,「間違った記述」,「多義的表現」が含まれておらず、理解容易で明確なこと。
5. 権利活用の可能性の高い内容であること。具体的には、次のとおり。
   (1) 同一の発明の効果を得るためには、実施回避が困難な内容であること。すなわち、考えられる多様な代替手段や進化形態を全部、権利範囲に含むこと。
   (2) 侵害立証が可能であること。
   (3) 実施者を特定できること。
   (4) 権利範囲内の現在又は将来の市場規模が大きく、権利活用の採算がとれる見込みがたつこと。
6. 請求項がカバーする範囲が、明細書・図面で開示されている範囲を超えていないこと。(サポート要件

ただし、サポート要件を満足する請求項の範囲を狭く解釈しすぎて、実施例しかカバーしない請求項にまで萎縮させない事も重要である。
すなわち、実施例において開示したもの以外も実施可能となるように明細書を作成することが必要である。
そのような明細書の作成のコツの1つが、実施の形態において、請求項の構成要素ごとに使用可能な技術的手段の選択肢を多種類挙げながら、 各技術的手段の動作原理を中心に説明することで、それらが請求項での当該構成要素として成り立つことを論理的に示すのである。
請求項での構成要素ごとの技術的手段について実施の形態で述べたものの中の1つの具体的な組合せを詳しく説明したものが、実施例である。
実施例をたくさん書くのも良いが、実施の形態での説明をうまくやることの方が、カバーする範囲の広い請求項のサポート要件の確保には有効である。

ステップ4: 検証の結果、請求項の表現にのみ問題があるのであれば、ステップ2に戻る。請求項の設定の前提となる仮説のどこかに問題があるのであれば、 ステップ1に戻る。請求項にも、仮説にも問題がないのであれば、請求項は完成となる。

まずは、気軽に発明のポイントとなる部分(ジェフソンタイプの請求項で言う特徴部分の構成要素)を簡単な図や文章で表現してみる。
発明者からの発明説明書は、ステップ1の仮説設定の重要な資料であるが、発明者が認識している内容が請求項として設定すべき部分とは限らない事に留意が必要 であるし、発明者から発明の本質を抽出しようとしている自分の認識した内容が勘違いである場合もある事に留意が必要である。
発明の本質を把握するためには、ステップ3の請求項の検証の段階で、次の事を行なう。

(1)請求項の構成要素の上位概念化と下位概念化を実行する。
(2)発明の効果を起点として、請求項で表現された因果構造を原因方向にさかのぼり、因果関係に寄与しない構成要素や格成分を抽出する。
(3)請求項の構成要素の間の因果関係を、原因から結果方向にたどり、発明の効果に辿り着けるかをみる。

特許戦略メモに戻る      前ページ      次ページ

(C) Copyright 2011 久野敦司(E-mail: patentisland@hotmail.com ) All Rights Reserved

戦略のイメージに合うフリー素材の動画gifを、http://www.atjp.net からダウンロードして活用しています。