213.イノベーション実現の現場

商取引きの最後の最後の場面では、「取引の相手を信用する」という部分が必ず、必要となる。 取引の相手は自分にきちんと対価を支払うであろうかとか、相手が自分に提供する商品はきちん と動作するであろうかというリスクについての不安がつきまとう。このリスクを様々な手段で低減 して、自分が納得できるレベルにならねば、取引はされない。完全にこのリスクを排除しようとする と、商取引きのコストは大変に高くなり、取引がなされなくなる。(信用崩壊による恐慌)
イノベーションの実現の現場にも、商取引の現場で発生するような事態がある。
イノベーションとは、知識の新結合による価値創出である。知識の新結合による価値創出を活発化 させるためには、企業や個人や大学やNPOなどの各種のプレイヤーが気軽に様々なアイデアや知識を 持ち寄って、新結合を実現して評価し、面白かったり有望なものには、具体的な活動を即座に開始 するということが必要となる。
その際、「相手がアイデアを盗む」という疑いや、利益の分配の不公平性への不満や、権利の帰属の 決定の手続きの煩雑さなどが生じると、これらのプレイヤーの活動にはブレーキがかかり、ほとんど 前に進まなくなるか、できるだけ価値の無い情報だけをやりとりしようというものになってしまう。
これへの解決策は2つある。

M1. 経済的な利益を度外視したボランティアベースのイノベーション活動を中心とする方策
M2. 知的財産権の帰属や利益の分配や機密情報の管理の課題をきちんと解決する枠組みによる方策

M1の活動に参加できる人々は、金銭的利益を求めず、知的成長や知的チャレンジや知的交流に喜び を見出したり、社会や人類への貢献に喜びを見出す人々(知的エンジェル)である。
知的エンジェルは、金銭的な利益やイノベーションを事業として実現することにあまり意欲がない。 そのため、知的エンジェルがイノベーションを事業で実現する方向に突き進むことは期待できない。

すなわち、イノベーションによって新事業を実現することを目指す人々(起業家)やベンチャー企業が、 イノベーションの現実化には必要となる。
起業家がイノベーションを事業として実現するためには、競合との競争に勝つ必要が発生するので、 M2による方策が必要となる。
しかし、M2による方策だけでは、権利義務の関係や指揮命令の関係が必要となってきて、権利を多く得て、 義務を少なくしたいというメンバー間の力学が働き始め、全体としてのイノベーションが阻害されがち になる。

そこで、M1とM2の組み合わせがイノベーションに有効であるということが言える。
すなわち、M1の活動の成果として大きなイノベーションの種(有望ビジネスと、そのビジネスを実現 するための技術やビジネスモデルのアイデアの組み合わせ)を、得たベンチャー企業や企業ペアが、 M2のスタイルで、その種を事業に育成するというものである。
その場合、M1で貢献してくれた知的エンジェルに、M2で事業を成功させた企業や企業ペアは、 何らかのお礼(感謝の言葉、M1の活動の資金援助や場所の提供、M1活動の宣伝行為)をすることが 必要と考える。
M1とM2の活動がうまく結合して相互に活動を拡大していけば、その地域はシリコンバレーのような イノベーションのあふれる地域となる。
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