190.技術力と技術資産の違い

技術力は、具体的な技術課題を解決する能力であり、技術者や研究開発者の能力と志とビジョンが技術力の 本体だと思う。
確かに、技術の内容をドキュメントに表現したり、ソフトウェアに移転することはある程度は可能であるが、 未知の技術課題を抽出したり、それを解決するにはドキュメント化された表層的な情報だけでは無理である。 技術力は、人間と強く結合している。

それに対して、技術資産は、価値評価して売却可能であり、技術者から分離された技術上の情報であると考え る。その中には、知的財産権も含まれるし、ドキュメント化された表層的なレベルの情報も含まれる。
しかし、技術資産では具体的な技術課題を抽出したり、解決することはできない。技術資産が技術者や研究者 と結合すると共に、結合した後に技術者や研究者が志やビジョンを持って行動できねば、技術資産は移転でき ても活用ができない。

この意味で、技術資産は死んだ干物のようなものである。本来、技術経営では技術力を対象とすべきである のだが、ファイナンス関係者が技術経営について主導権をとって論じてしまった結果、技術資産という的外れ な概念を土台として技術経営を論じてしまう結果になっていると考える。これは、是正が必要である。
特許権は技術そのものではなく、技術思想を記述した情報+技術思想の記述から発生した権利である。 それは、現実の物理空間において、具体的で日々変化する技術課題を抽出したり、技術課題を解決するために 関係者の衆知を集めたり、必至で考えて閃きを得たり、素晴らしい人との出会いや実験結果から新しい発想を 得たりという生きた活動からは切り離された静止した乾いた世界のものである。
しかし、特許は現実の物理空間の世界からみると静止した乾いた世界の存在だが、技術思想空間の陣取り合戦 ということでは、生きて泳いでいる。技術思想空間の価値の高い場所に大きな城を築き、その城を基地として 現実の物理空間での商品やサービスの流れを支配しようと努力している知財部員の志とビジョンは、技術思想 空間では主役であり、活きている。
技術資産という概念は、現実の物理空間での技術者の志やビジョンも捨象し、技術思想空間での知財部員の志 やビジョンも捨象し、技術における売却可能な金銭的価値に注目しすぎた概念であり、取引きは出来ても何事 かを成し遂げるパワーを失っており、言わば干物の身ですらなく、「干物の値札」のようなものだと思う。
「干物の値札」をかき集めたり、並べてみても現実空間での技術的課題の解決もできないし、技術思想空間で の陣取り合戦もできない。
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