180.知的資産経営と技術と志

技術とは目的を達成するための手段や手法です。技術を具体的な対象に適用して目的を達成するためには、 その具体的な対象に応じた固有の問題を認識し、その固有の問題も含めて解決することが必要になります。
そのため、単に技術の内容を記録したドキュメントや、ある技術の基盤の上で作成されたソフトウェアだけで は具体的な目的を達成できない場合がほとんどということになります。
すなわち、人間の問題発見能力と問題解決能力が技術の実際の適用には必要です。
未踏分野の問題解決をするには、通常の問題発見能力や問題解決能力を越えた使命感や情熱という個人の意志 の存在がさらに重要になりますし、集団で大規模な問題を解決するためには組織を駆動するビジョンや組織文化 や組織としての学習能力も必要となります。
このように考えると、技術力は技術を担う技術者から分離しては存在できないし、技術ドキュメントの内容や 情報量だけでは計測できないものであることがわかります。

知的資産という用語があります。(参考サイト1参照)
これは、上記の技術力,知的財産権,経営力を、市場に開示する企業情報の一部として表現対象とするととも に、知的資産を価値創出の源泉と把握して、経営に活かそうというものです。
しかし、知的資産として技術を把握して財務諸表のように開示しようとすると、技術について定量評価可能な 部分だけを抽出して表現するようになります。
その結果、技術者の問題発見能力や問題解決能力,使命感や情熱やビジョンや組織文化などの「志」は無視さ れるようになります。具体的に言うと、エクセルでの集計やグラフに載るものだけを注目して、そのような情報にだけ頼 った計画や方針を策定するようになっていきます。
「志」を含めた技術力は生きて泳ぎ回っている魚であると例えることができます。 「志」を無視してしまった知的資産経営は本来の知的資産経営ではなくなり、死んで日干しにされた魚の干物 のようなものです。
したがって、干物のように表現された知的資産を分析しても具体的な問題を解決するための技術力はわかりま せんし、技術経営ができるはずもありません。

数値表現できる範囲の知的資産という干物だけを見るのではなく、組織の構成員の志(参考サイト2参照)を みることがなければ本当のことは判らないと思いますし、志がなくなった組織は一時的に利益が出ていても活 性を失い崩壊していくと思います。
志がない組織には無責任主義や前例踏襲横並び主義という価値創造と対極の行動原理が蔓延する ためです。
「志」を明らかにした知的資産経営が必要です。
【参考サイト】
1. 知的資産経営トップページ
2. 志本主義のススメ

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