172.独自の顧客価値提供をせずして、売り上げ向上を目指す者が陥る失敗

独自の顧客価値提供を発想せず、何らのビジネスモデルのアイデアがなくても、顧客が何を買いたがっている かということを市場調査を通じて知るということは可能である。
しかし、独自の顧客価値提供のアイデア無しに事業をしていると、次のような罠にはまり込むことになる。

1.市場調査が個性を殺す。
2.「効率」や「売り上げの見込み」を追求するあまり、独自性を失い、価格競争へ向かわざるをえないと いう「負のスパイラル」に落ち込む。
出典: 東急ハンズの謎

「負のスパイラル」がさらに進行すると、さらなるコスト削減による価格低減のために、さらなる 人員削減に走る。それでも売り上げが伸びないとなると、少なくなった人員の中で販売力の増強をはかるために、 開発人員を販売人員にまわすという策まで実行するようになる。
こうなると、独自の顧客価値提供のための新商品開発ができなくなり、さらに独自性が失われ、さらなる 価格低下ぐらいしか売り上げの維持の方策がないということになり、再投資のための利益も消えていき、 疲弊がさらに進行し、ついには事業撤退に行き着く。

これが意味することは、独自の顧客価値提供のためには独自のアイデアが必要であり、独自のアイデア無し に事業を行なっていると、負のスパイラルに陥ってしまうということである。

これはある意味で、当然のことである。独自のアイデアという情報が顧客価値の源泉であるのに、その源泉 を持たずして、各種の財務指標(売り上げ、利益、利益率、固定費比率など)を上昇させるための形式的で知恵の無い 方策を実行しても、顧客価値創造という燃料が切れてエンジンの停止した飛行機を飛行させているような ものであり、下降しながら滑空するだけしかできず、最後は墜落という運命しかないのである。
経理主導の経営は、こうした負のスパイラルに必然的に陥る。
経理は下記の(1)から(6)に記述した概念を対象としておらず、単に金銭を通じて行なわれた取引きに 現われる金額を集計し、そこから得られる指標の範囲の世界しか見えないし、見ようとしないためである。

 (1) 顧客において実現できる価値の種類と内容と大きさ
 (2) 価値を産み出す源泉となる技術や知識の意味と、それらの発展の方向性と応用の広がり
 (3) 価値を産み出す源泉を活用する駆動力となる経営理念、事業ビジョン、哲学、それらを担う人の重要性や価値
 (4) 金銭取引を通じずして交換される価値や情報
 (5) 顧客や社会から得ている信用の価値と重要性
 (6) 上記の(2)や(5)を法的に保護する知的財産権の内容、価値、重要性など


経理主導の経営と対極にあるのが、知財経営である。
独自の顧客価値提供の源泉である知的財産を経営の柱にするものである。知的財産経営は用語こそ目新しいが、 言っていることは本当は新しくは無いのである。
(6)社会のニーズを素早く捉える (7)常に自主技術の開発に努める」、 「人まねはするな」、「私達は先進の技術で広く人類の発展に貢献します」、 という経営理念は、知財経営を意味している。

財務指標をベースにした経理主導の経営は、企業のダイエットに一時的な効果はあっても、長期に経理主導の 経営をしていると、価値創出の源泉に注目していないので企業は活力を失い、ミイラのようになっていき、 最後には滅びることとなる。

特許戦略メモに戻る      前ページ      次ページ

(C) Copyright 2007 久野敦司(E-mail: patentisland@hotmail.com ) All Rights Reserved

戦略のイメージに合うフリー素材の動画gifを、http://www.atjp.net からダウンロードして活用しています。