150.発明の評価方法

【発明評価の前提】
発明は企業内での役割だけでなく、発明者にとっての役割、学会での役割、国家にとっての役割、人類にとっ ての役割がある。 また、発明は技術として製品やサービスにおいて用いられたり、組織の技術力の一部となったり、特許権とな ったり、新たな発想の源泉となったりもする。すぐには応用の対象が見つからない発明であるが、社会 の発展とともに応用の可能性が開けてくる先進的なものや、数ヶ月先に販売開始する商品に応用されるという ものまである。
このように発明は、多面的な性格を持っている。単に商品で実施されるからとか、新規性や進歩性がありそうだから という理由だけで本来は評価すべきものではない。

【発明と特許権の関係と、特許権の位置付け】
特許権は発明の存在が無ければ存在できないが、発明は特許権が無くても存在できる。特許権は一定期間だけ 特許発明の実施の独占権を特許権者に与えることが産業の発達や技術の発達に寄与すると言う仮説に基づいて 設定されたものである。
しかし、本当に全特許権者が特許権を活発に相互に行使しあうことになったら、産業活動は停止するだろう。 特許権の行使は付加価値を創出せず、市場の取り合いとなるだけである。それに対して、発明は文明を構成す る部品であり、産業活動においても付加価値の源泉である。
特許権は、独占排他権であることを基盤にすることで良い技術を誰よりも早く開発した者が、他の技術との結 合や事業との結合を果たして、新たな付加価値を社会に提供できるようにするところに、社会的価値がある。

【発明の評価基準】

(1)基本発明の評価を高くする。
発明のどのような役割の立場でみても、新しい原理やアーキテクチャを切り開いた基本発明の価値は高い。 しかし、基本発明が実際の製品に応用されるようになるまでには、10年以上の年月を要することが多い。
基本発明を応用するための諸条件は簡単には出来上がらないためである。
したがって、製品やサービスでの実施の可能性を過大に重視して発明評価をすると、数ヵ月後には実施する という商品開発や商品の改良の中で生まれた発明の評価が過大に高くなる一方で、実施にまで10年以上の 年月を要するような基本発明の評価は大変に低くなる。
その結果、代替技術が多様に存在し得る発明の評価が基本発明の評価よりも高くなるようなおかしな状況が発 生してしまう。
このような事を防止するためには、その発明の属する技術領域での既存の原理やアーキテクチャを認識してお き、新しい原理やアーキテクチャを切り開く発明に遭遇したら、それがすぐにわかるようにしておく事が重要 である。

(2)自社のコア技術を強化する発明の評価を高くする。
基本発明の内で、その企業の事業や組織に適合したものは、その企業のコア技術の源となるので、その企業 での評価は特に高くなる。
基本発明ではなくても、コア技術を強化するような改良発明や応用発明には技術戦略の観点で高い評価を与え て管理する必要がある。すなわち、自社ですぐには実施しないような改良発明であっても、優先的に特許出願 すべきである。これは、代替技術の領域をもカバーするようにコア技術の分野ではパテントネットワークを張 り巡らせる必要があるからである。改良発明のレベルでは、部品のコストの変遷やビジネスモデルの変遷から 発明時には実施の可能性が低かった発明が、後から高い実施性を持つようになることもあるからである。

(3)自社のコア技術と応用分野が重なるようになってきた全く異なる領域の新技術の発明の評価を高くする。
コア技術を中心とした技術戦略、それに連動した特許戦略および事業戦略は高い成功確率をもたらすのだが、 弱点もある。それは、破壊的イノベーションと呼ばれるものに弱くなるということである。(参考サイト1,2)
自社のコア技術にとっての破壊的イノベーションをもたらす発明の特許権を自ら取得しておくことは、コア 技術の弱点をカバーすることになるので、重要である。したがって、自社のコア技術と応用分野が重なるよう になってきた全く異なる領域の新技術の発明の評価を高くすることになる。

【参考サイト】
(1)イノベーションのジレンマに陥る優良企業たち
(2)技術戦略論メモ

特許戦略メモに戻る      前ページ      次ページ

(C) Copyright 2007 久野敦司(E-mail: patentisland@hotmail.com ) All Rights Reserved

戦略のイメージに合うフリー素材の動画gifを、http://www.atjp.net からダウンロードして活用しています。