15. 開発テーマの触媒としての発明抽出行為

商品開発技術者が商品の仕様を考察している時や、商品の設計をしているときには、実に多くの 事柄を同時に考慮しています。部品のコスト、部品のサイズ、重量、耐熱性、システム全体の 構造などなどです。要求仕様を決め、その後、内部の構造を決めるというようにステップを踏んで 開発をしていても、技術者の頭の中では関連する多くの事柄が同時に考察されています。 同時に多くの事柄を考えて、最適解としての設計を導き出すことをベテラン技術者は、短期間の 間に行なえるようになっています。しかし、ここに問題が潜んでいます。この最適設計は、ともす ると、目の前の商品化テーマという範囲の条件下での最適解となるということです。 例えば、その商品化テーマから始まる新事業の将来を見た場合の、自社の競争力を中長期的に何に 求めるかということが消えてしまったり、商品化テーマの時点では使用できなかった技術や部品が 将来においてコストダウンや小型化などで使用できるようになった場合のアーキテクチャの変化を 見落とすということも出てきます。このような不都合に、発明抽出という行為は良い対処法となる ことがあります。端的に言うと、発明抽出行為は、商品化テーマで忙しくしている技術者を瞑想さ せ、視野を広げさせ、自分の開発している商品が顧客に提供する本質的な価値は何かということ、 その本質的価値は、どのような技術思想から発生しているのかということに気付かせるからです。 この本質的価値の源となっている技術思想こそが、その商品化テーマの中心の発明です。 このような発明を抽出するには、知財部門のメンバーが、商品化テーマの開発リーダーに本質的な質問 を多面的に、論理的に投げかけていかねばなりません。 良い質問が良い気付きを開発リーダーにもたらします。この商品の本質は、このような技術思想で あるのかと、気付けば、その技術思想のもとで、別のもっと簡単でローコストの方式を商品に採用 できるということも発見できます。それにより、商品化テーマでの開発の質も上がり、開発期間の 短縮も望めます。 さらには、他の開発テーマとの関係まで見えてきますし、他企業の研究との補完関係や、補完した あとに実現できる新しいアーキテクチャや、ビジネスモデルの構想も浮かんできます。 発明抽出行為は、開発テーマに対して触媒のように働くことが理想です。
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