100. 請求項が示す権利範囲の解釈での不毛な議論の実態と対策

特許権侵害訴訟の最近の判決を数件、参照してみるだけでも、権利範囲解釈での不毛な議論の実態が明らかとなる。
判決例:東京地裁 平成15(ワ)18830等 特許権 民事訴訟事件(松下電器 対 ジャストシステム事件)
【請求項1】
アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン,
および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と,
前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と,
前記指定手段による,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,前記表示手段の表示画面 上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段と
を有することを特徴とする
情報処理装置

この裁判では、請求項1での「アイコン」の意義が、第1の争点であった。
判決にも記載のとおり、明細書にはアイコンの定義を記載した部分はない。発明の詳細な説明においては、アイコン という用語を用いた記載が数箇所にある。
その結果、裁判所は出願当時の「アイコン」の意義を明確化するために、次のような文献を参照している。
昭和64年1月1日発行の「現代用語の基礎知識1989」(甲56)
昭和63年3月30日発行の「電子情報通信ハンドブック」(甲57)
昭和61年11月20日発行の「図解コンピュータ百科事典」(甲58)
昭和61年4月25日発行の「JStarワークステーション」(甲44,乙1)
これらの文献をもとに、裁判所は、次のようにしている。

本件特許出願当時の文献によれば,アイコンとは,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字とし て表示したもの」と一般に理解されていたものということができる。


この事例からも明らかなように、権利範囲を特定するはずの請求項が欠陥を有していることが不毛な争いや、 権利範囲解釈理論の複雑化を招いている。請求項の欠陥としては、次のものが大きい。

1. 請求項で用いている用語が明細書において定義されていない。
2. 明細書で定義されていないだけでなく、定義を求めるべき辞書を特定していない。

前記2つの欠陥は、 請求項記述言語を用いることで解決できる。
また、請求項記載の発明の技術的範囲と、明細書および図面で開示された発明の技術的範囲の広狭の問題から、 認識限度論などが発生している。 この問題の解決には、本質的には、次のことが役立つ。
(1)請求項記載の発明の各構成要素と明細書・図面記載のオブジェクトの間のリンクを明確に記載する。
(2)請求項記載の発明を概念設計書として用いるトップダウン設計で、詳細設計可能な技術範囲を明確化する。

【参考サイト】
(1) 権利解釈方法と明細書
(2) クレーム解釈の裁判例と明細書
(3) クレーム解釈手法の原理的考察(1)
(4) クレーム解釈手法の原理的手法(2)
(5) クレーム解釈手法の原理的考察(3)

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