米国特許出願テクニックQ&A

質問回答
日本で生まれた発明を、日本出願を基礎とするパリ条約上の優先権を主張して米国出願する方法1と、日本出願をすることなく最初から米国に第1国出願する方法2の、日本の出願人にとっての利害得失を比較するとどうなる? 方法1と方法2とで取扱いが異なるものとして考え付くものは次のとおりです。
  1. 発明日の取扱い
  2. 新規性判断の基準となる「米国出願日よりも1年を超える日」の取扱い
  3. 取得した米国特許権の権利期間
  4. 拡大された先願の地位の効果
上記の各項目について、方法1と方法2を比較していきます。

1.発明日の取扱い

(1) 基本的事項のおさらいをします。
発明の実施化の日または米国特許出願の日のうち、どちらか早い日を、発明日とする。(判例)
米国特許出願が、米国からみた外国での特許出願を基礎とした優先権主張出願の場合には、優先日を米国特許出願日として扱えるので、上記の判例より優先日を発明日として取扱える。(119条
発明の着想の後に、実施化に向けた誠実で継続的な努力をしていたことを立証できれば、着想の日を発明日とすることができる。

1996年1月1日以降の米国特許出願に関しては、WTO加盟国である日本での発明発生の立証ができれば、その立証できた日を発明日とすることができる。(104条

(2) 方法1と方法2の比較
方法1では、優先日を発明日として取扱えます。方法2では、米国特許出願日を発明日として取扱えます。この意味では、方法1でも方法2でも最初の出願日を発明日として取扱えるので同等だと言えます。しかし、実務的に考えた場合、日本で生まれた発明を方法1のように日本出願するのと、方法2のように米国出願するのでは、特許事務所との連絡作業の時間による出願日の遅れは、当然、米国出願する方が日本出願するよりも日本の出願人にとっては大きいと考えられます。従って、実際には日本出願した方が、実務上は早い発明日を確保できることになります。

(例外) 日本語で米国出願ができる。(37CFR1.52(d))
英語以外の言語で記載された出願の場合には、「出願の欠落部分の提出の通知」(NOTICE TO FILE MISSING PARTS OF NONPROVISIONAL APPLICATION)と題された米国特許庁の通知が出願人に送られる。この通知により、通知の郵送日から2ヶ月以内(追加料金を支払うことで延長可能)に出願を完備するように出願人に求める。また、37CFR1.17(i)に定める料金を支払わねばならない。これらができなかった場合には、出願の放棄となる。したがって、上記の期間内に、この料金を添えて、さらに出願の翻訳内容が真正であることを宣誓した宣誓書付き翻訳文(verified translation)を提出すれば、正規に出願した米国特許出願として取扱われる。(37CFR1.52(a))

日本語で米国出願をするという上記の方法を採用するのであれば、左記の方法2であっても方法1と同程度の早い出願日を確保できることになる。



2.新規性判断の基準となる「米国出願日よりも1年を超える日」の取扱い

(1) 基本的事項のおさらいをします。
次の1つに該当する場合には、その出願は新規性なしという理由で特許を受けることができません。下記の「出願日」は米国特許出願の日です。
  1. 出願人の出願日より1年以上前の、他人による合衆国又は外国での特許取得(102条b項)
  2. 出願人の出願日より1年以上前の、刊行物記載(102条b項)
  3. 出願人の出願日より1年以上前の、合衆国内での公用および販売(102条b項)
  4. 出願人の出願日よりも12ヶ月以上前に外国で出願人等によって出願された特許出願に基づく特許が、米国出願前に与えられるか、与えられ得る状態になっていること(102条d項)

(2) 方法1と方法2の比較
方法1は方法2よりも不利になります。方法1では日本出願の日が優先日ですが、優先日が102条b項、d項の適用の際の出願日とはならないためです。

3.取得した米国特許権の権利期間

(1) 基本的事項のおさらいをします。
米国特許の権利期間(154条
出願日権利期間
1995年6月7日以前の出願登録日から17年間
1995年6月8日以降の出願最先の出願日から20年まで(特許取得手続に3年以上がかかった一定の場合には、5年を限度とする権利期間延長の例外あり)

最先の出願日とは: 対象の特許出願の出願日、120条121条の継続出願および365条(c)の継続国際出願の中の最先の出願日である。
注)
@ (根拠: Changes to Implement 20-Year Patent Term and Provisional Applications; 法案番号:3510-16)
A 再発行特許(Reissued patent)の権利期間は、「原特許の期間が消滅していない範囲の期間に対して付与される」とされている。したがって、原特許に関する上表で算出された権利期間を越えることはない。(251条

(2) 方法1と方法2の比較
権利期間の消滅日が方法1の方が方法2よりも遅くなります。米国出願日は方法1の方が方法2よりも遅いためです。権利期間の開始日は、審査期間が同一だと仮定すると方法2の方が方法1よりも早くなります。

4.拡大された先願の地位(自己の出願日の後で生まれた他人の発明が特許権として成立することを防止する効果)

(1) 基本的事項のおさらいをします。
  • 特許出願人の発明前に他の者により合衆国において出願された特許出願、または特許出願人の発明前に他の者により出願された第371条c項(1)、(2)、(4)の条件を満たす国際出願に基づいて許可された特許に記載されている場合は、その発明は特許を受けることができない。(102条(e))
  • 特許出願人の発明前に、発明が合衆国において他の者によってなされており、その者が発明を放棄、隠蔽、または秘密にしていない場合には、前記の特許出願人は特許を受けることができない。発明の優先性を決定する際には、発明の着想、および実施に関する各日付に限らず、初めに着想し、最後に実施した者に対しては、他の者の着想の時より以前からの誠実な努力を考慮しなければならない。(102条(g))
  • Hilmer ドクトリンは、Hilmer I と、Hilmer II と呼ばれて区分されている。
    1. Hilmer I: 特許法119条での外国優先権(Foreign Priority Right)は、特許法102条(e)での先行技術としての効果を、その外国優先権主張出願の優先日に与えるものではない。
    2. Hilmer II:特許法119条での外国優先権(Foreign Priority Right)は、特許法102条(g)での先行技術としての効果を、その外国優先権主張出願の優先日に与えるものではない。
  • 米国特許法では、米国出願のもととなった第1国出願の日をもとにした拡大された先願の地位が確保されない。(ヒルマードクトリン(パリ条約4条B違反)による)
(2) 方法1と方法2の比較
方法1は、方法2よりも拡大された先願の地位の確保において不利である。方法1で米国出願の前に行なわれた日本出願の出願日を用いることができず、米国出願の日のみが問題となるが、方法2では最初から米国出願をするので、有利である。
参考サイト: 
@http://www.ryuka.com/docs/shutuganjiki.html
Ahttp://www.people.or.jp/~kikuma/chempat.html
Bhttp://www.sankyo-pat.gr.jp/Pub/EP020.htm
Chttp://www.ryuka.com/syutuzyun.html
Dhttp://www.glocom.ac.jp/odp/library/60.pdf
Ehttp://www.paznet.com/neifeld/hilmer.html
Fヒルマードクトリン(Hilmer Doctrine)
GMPEP2136.03(a), In re Hilmer (Hilmer I),149USPQ480)
米国の出願実務では、少なくとも重要な発明に関する限り、実質的に先願主義の状態になっていないか?米国の出願人或いは実務家の人たちの出願日に関する“心得”は? 米国特許法では、同一発明をクレームした出願人が複数いた場合、インターフェアレンス手続により、先発明者を定めて特許権者とする。このインターフェアレンス手続で後出願者が勝つ確率は、25%程度である。また、インターフェアレンスには、下記のような複雑な手続と多くの年月が必要となる。典型的には、2年(ただし、CAFCに控訴されるとさらに長期化する)を要する。また、Discovery手続が行なわれれば、特許権侵害訴訟レベルの費用がかかる場合もある。したがって、重要な発明ほど、早く出願して特許権者となる確率を向上させるという策をとり、発明日よりも出願日を重視するように心得るべきである。

インターフェアレンス手続(37CFR1.601-688)
  1. インターフェアレンスの宣言
  2. 明細書補正などの各種動議の提出
  3. 発明完成の経過などに関する準備書面の提出
  4. 証拠開示(Discovery)
  5. 証言
  6. 口頭尋問
  7. 審決
  8. 審決不服訴訟

参考サイト
  1. http://www.ryuka.com/us_pat_19.htm



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