2. 成長限界に達した人類社会における知的財産権制度の目的の再定義

地球温暖化に代表される環境危機や食料不足やエネルギー不足などの進行の中で、知 的財産権制度も今までのような産業の発達を絶対的な目的とすることはできない状況 に来ていると思います。

産業の発達=GNPの増大ということであれば、産業の発達は膨らみきった風船を破 裂に向かわせるものであり、人類の破局への道筋であるということになるためです。

工業製品の生産販売数量のこれ以上の増大は害悪であり、むしろ生産数量の減少を目 指すべきであり、その実現のためにこそ知的財産権制度を活用すべきフェーズに来て いると考えます。
知的財産権制度は、工業製品やエネルギーの生産および消費を減少させつつ、人類の 幸福の総和を増大させるように、人類社会を誘導するためのツールの一つに変貌を遂 げるべきではないかと思います。すなわち、人間に幸福感や満足感をもたらす情報の 開発や製造販売を優遇し、工業製品の大量生産や大量販売を抑制するような制度設計 に切り替えるべきだと思います。
さらには、環境汚染を拡大させながら知的財産権を侵害する工業製品を安価に大量生 産している偽造大国などをターゲットに知的財産権を集中的に権利行使して大量生産 を抑制することも必要でしょう。

要するに、特許法などが大目的に掲げている「産業の発達」というものは、成長限界 に達した人類社会にとっては再定義が必要であると考えます。
すなわち、当該産業における生産および販売規模の拡大をもって産業の発達というのでは なく、下記のような内容として、「産業の発達」を再定義すべきと考えます。

【産業の発達の定義】
当該産業が、次の全条件を満足する状態になることを、産業の発達と言う。
1. その産業の活動によって、全産業の環境負荷の総和が減少すること
2. その産業の活動によって、一世代では回復不能な悪影響が特定の国や地域の範囲にでさえ もたらされることがないこと
3. その産業の活動によって、人類の幸福の総和が増大すること
4. その産業の活動によって、人類の不幸の総和が減少すること
5. その産業の活動によって、人類の物理的または精神的活動の自由度と規模が拡大すること


【参考サイト】
環境白書 循環という考え方
国民総幸福量

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