米国特許庁の発表したコンピュータ関連発明の審査基準の概要

101条は、機械、製法、物質から構成された物、方法を保護対象とする。コンピュータ関連発明が特許法での保護対象である法定主題(statutory subject matter)に該当するかどうかを、どのように判断していくのかを説明する。

1. 非法定主題(Non-Statutory Subject Matter)

記述資料(descriptive material)だけから構成される、コンピュータ関連発明のクレームは、非法定主題とされている芸術,自然現象,抽象的概念,自然法則などと同様に、非法定主題である。
記述資料は、「機能的な記述資料」と「非機能的な記述資料」とに分かれる。さらに、「機能的な記述資料」は、コンピュータ読み取り可能な媒体に記録されたときに機能性を得るような「データ構造」と「コンピュータプログラム」とに分かれる。
両方のタイプの記述資料は、それを記述資料それ自身としてクレームした時には、非法定主題となる。
機能的な記述資料は、コンピュータ読み取り可能な媒体に記録されたとき、それは媒体との間に構造的で、機能的な相互関係を持つので、通常の場合は、法定主題となる。これに対して、非機能的な記述資料が、コンピュータ読み取り可能な媒体に記録されたとしても、それは構造的で機能的な関係を媒体との間に持つのではなく、単にその媒体によって運ばれているに過ぎないので、それは法定主題とはならない。

  (a) 機能的な記述資料:「データ構造」, 記述資料それ自身またはコンピュータプログラムリストそれ自身

   コンピュータ読み取り可能な媒体に具現化した形態でクレームされていないデータ構造は、記述資料それ自身であり、法定主題とはならない。なぜならば、それらは、物理的な実体でもなければ、法定主題としてのプロセスでもないからである。
   同様に、コンピュータプログラムリストそれ自身、プログラムの記述又は表現としてクレームされたコンピュータプログラムは、物理的な実体でもないし、法定主題のプロセスでもない。また、実行される「動作」でもない。そのようにクレームされたコンピュータプログラムは、いかなる構造的で機能的な関係も、機能を実現するように表現された他のコンピュータプログラム発明のクレームとの間にも持つことはない。
   それとは対照的に、コンピュータプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な媒体のクレームは、構造的で機能的な相互関係をコンピュータプログラムと媒体との間に持つので、それは法定主題となる。したがって、記述資料それ自身を定義したクレームを、法定主題となる発明を記述したクレームから区別することは重要である。

コンピュータプログラムが、コンピュータがそのコンピュータプログラムの命令を実行するプロセスとして記載されているようなクレームは、プロセスクレームとして取扱う。
コンピュータプログラムが、メモリーのような物理的構造との結合として記載されているようなクレームは、製品(product)のクレームとして取扱う。
コンピュータプログラム関連発明と法定主題の関係
注) 「機能的な記述資料」にコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録するとの要件を追加しても、法定主題とはならない例外もある。(例: 数学問題の解法、単なる概念の提示など)

   (b) 非機能的な記述資料

    計算プロセスの実行との間に機能的な相互関係を示す事のできない記述資料は、法定主題としてのプロセス、機械、生産品、それらの組合わせを構成せず、101条のもとで拒絶されるべきである。

         音楽、文学、芸術、写真および事実データが単に配置や編集されたもののような記述資料は、コンピュータから、いかなる機能的な相互関係を記録されたデータの一部や計算処理の一部との間に有することなく、単に、読んだり出力されるだけである。そのような記述資料単独では、データやコンピュータに機能や構造を与えることはないので、そのような記述資料は、プロセス、機械、製品、物質から構成された物とは言えない。

   (c) 自然現象
    エネルギーの形態の物理的性質、すなわち周波数,電圧,磁場の強度のようなものを記載するのみで、エネルギーや磁気作用そのものを定義するものは、非法定対象の自然現象を記述するクレームである。しかしながら、エネルギーや磁気作用というような自然現象の実際のアプリケーションを表現するクレームは、法定主題である。


2. 法定主題(Statutory Subject Matter)

   (a) 法定主題の製品クレーム

    もし、クレームが、ハードウェアまたは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって、機械や製品の物理的な構造を示す事で、有用な機械または製品を定義しているのであれば、そのクレームは法定主題の製品を定義していることとなる。
機械または製品のクレームは、次の2つのタイプのうちの1つとなる。
      (1) 基礎をなすプロセスを実行するための全ての機械、または、基礎をなすプロセスをコンピュータが実行するための全ての製品、を含むクレーム
      (2) 特定の機械または製品を定義するクレーム。

クレームが(1)のタイプの場合、製品の特許性をコンピュータが決定付けるような基本的は処理を評価しなければならない。

   (i) 機械または製品での処理の実施例を含むクレーム

      各クレームは全体として取扱わねばならない。クレームにハードウェア要素が記載されているからと言う理由だけでは、必ずしも、クレームを特定の機械または製品に限定してはいけない。
      もし、製品クレームが、処理のいくらか又は全部をコンピュータ化したものを含んでおり、それが明細書から読み取れるとき、そのクレームは基礎となるプロセスをもとに審査されねばならない。そのようなクレームとしては、次のものがある。
      

   (ii) 製品クレーム  特定の機械および製品を示すもの

       もし、製品クレームが、コンピュータで実現されたプロセスの一部または全部を含む場合、そのクレームは特定の機械または製品のクレームとして扱わねばならない。特定の機械または特定の製品の部分としてのコンピュータ関連発明を定義するクレームは、機械または製品の物理的構造を、そのハードウェアまたはハートウェアおよび具体的なソフトウェアの用語で、表現しなければならない。
一般的に、特定のプログラムで動作するコンピュータは、コンピュータの要素を特定し、これらの要素がどのようにハードウェアまたはハードウェアと特定ソフトウェアの組み合わせの中で構成されているかを示さねばならない。       

  (b) 法定主題のプロセスクレーム

     実行すべき1つ以上の動作を必要とするクレームを、プロセスクレームという。
しかしながら、全てのプロセスが、101条における法定主題というわけではない。法定主題となるためには、クレームされたコンピュータ関連発明は、次のどれかでなければならない。     
  1. 技術の実際の応用目的のための、コンピュータ外での物理的変換の結果が、明細書で開示されているか、当業者に知られていること。(下記の(i)に詳細を記載している)
  2. クレームの記載が、技術の実際の応用目的に限定されていること。(下記の(ii)に詳細を記載している)
もし、プロセスがコンピュータ内部での操作に留まるものであるならば、クレームに記載された実際の応用目的は、クレームの主題以上の限定を設けるものでなければならない。もし、コンピュータの外部で物理的な変換が起こるものなら、実際の応用をクレームする必要はない。一方、もし、物理的変換もなく、プロセスが単なる概念を取扱うものであったり、1群の数値を、他の1群の数値に変換するものにすぎない場合には、実際の応用をクレームに記載することは必要である。

もし、コンピュータの外部での物理的な変換をもたらすものであるなら、そのクレームされたプロセスは、明確に法定主題である。それらは、次の特定のカテゴリーに分類できる。

  (i) 安全な隠れ場所(Safe Harbors)

独立な物理的動作(コンピュータ処理の後の動作)

    もし、プロセスがコンピュータの外部で実行される物理作用を必要とし、しかもプログラムに従って動作するコンピュータによって実行されるステップから独立であり、これらの作用が実体のある物理的対象を操作するものであり、その結果が、その物理的対象に異なる物理的属性を与えたり、構造を与えるものであるならば、そのプロセスは法定対象である。
このように、もし、プロセスのクレームがコンピュータ処理の後処理ステップを1つ以上含み、その後処理ステップの結果として、コンピュータの外部に物理的変換をもたらした場合、そのクレームは明確に、法定主題である。
このタイプの法定主題の例として、次のものがある。


物理的対象または物理的作用を示すデータの操作(コンピュータ処理の前段階の作用)

    他の法定主題のプロセスは、物理的対象の計測と、計測結果をコンピュータ外からコンピュータデータに変換する作用を要求するものである。ここで、データは、コンピュータシステムの外部の物理的対象または活動に対応した信号であり、ここで、プロセスは物理的対象や作用を示す無形のものである信号変換を引き起こすものである。

  (ii) ある技術における、実際の応用へのコンピュータ関連の処理

    コンピュータ内には、常にある種の形の物理変換過程が存在する。なぜならば、コンピュータは信号に作用し、信号を処理する過程で、コンピュータの要素の状態を変化させるからである。そのような物理変換がコンピュータ内で生じるとしても、そのような作用は、非法定主題であるコンピュータ処理から法定主題のコンピュータ処理を区分しないので、その処理が法定主題であるかどうかを断定的に言うことはできない。何が決定的であるかは、コンピュータがどのようにその処理を実行するのかに依存するのであり、コンピュータが現実のどんな応用を達成するかによるものではない。

    抽象概念を取扱うだけのもの、または純粋な数学アルゴリズムは、それが何らかの有用性を本質的持っていると言う事実があったとしても、それらは非法定主題である。
そのような主題を法定主題にするためには、クレームで表現されたプロセスは、その抽象概念またはある技術分野の数学アルゴリズムの、実用的な応用に限定されていなければならない。例えば、ノイズをモデル化した数学アルゴリズムを単に計算するコンピュータ処理は、非法定主題である。しかしながら、ノイズをデジタル処理で除去することに用いる数学アルゴリズムは、法定主題である。

   (c) 非法定主題のプロセスクレーム

    もし、クレームされたプロセスの「作用」が数値,抽象概念や前述の信号を操作するだけのものであれば、その作用は適切な法定主題に適用されるものではない。このように、数学的演算のみで構成されるプロセス、例えば、数値の1つの集合を他の数値の集合に変換するものは、適切な主題を操作するものではなく、法定主題を構成することはできない。

    単なる数学的演算からのみ構成されているプロセスを表現したクレームは、そのプロセスがコンピュータ上で実行されてもされなくても、非法定主題である。裁判所は、数学アルゴリズム、いわゆる、数学用語での「自然法則」と単なる「抽象概念」との相違を認識している。

   (d) プロセスの数学的演算手順に関係したクレーム表現
   (i) 用途または使用分野の陳述
     単に発明の用途または使用分野を特定するクレーム上の記述、特に、クレーム上の前文のみで、それらが記載されているものは、クレームの権利範囲を狭めることはない。
   (ii) クレームされたプロセスでの数学的演算の実行のための必要な前置ステップまたは、独立した限定

     ある状況で、1つ以上の数学的演算から構成されるプロセスでの使用のためのデータの収集や選択の動作は、その特定の数学的演算ステップ以上には、クレームを限定することはない。そのような動作は、計算をするために用いられる数学方程式で用いられる変数の値を、単に決めるにすぎない。言いかえると、その動作は数学的演算の実行以外の何物でもないのである。

     もし、クレームが、1つ以上の数学的演算の実際の応用を表現するプロセスで使用されるデータを生成する動作を要求するのであれば、これらの動作はクレームに対して数学的演算自身を越えて、さらなる限定要素として取扱われねばならない。そのような動作はデータ収集ステップである。そのデータ収集ステップは、アルゴリズムでは述べられていないが、クレームにおける独立した限定要件を構成する、ある種の後続ステップを要求する他の限定要素である。
   (iii) 数学的演算の解を用いるかまたは単に、数学的演算の結果を受け渡すにすぎない後続処理ステップ
     ある事例において、ある種の後続の動作は、その動作がクレームの本文に記載されていたとしても、プロセスクレームを、先行する数学的演算ステップを越えて限定することはない。しかしながら、もし、そのクレームされた動作が、課題解決のための、ある種の「特別な用途」を表現していたら、このような動作はクレームにおける独立の限定を常に課すことになる。ここで、「特別な用途」とは、数学的演算の直接の結果を単に出力するにすぎない以上の動作を言う。

   (e) クレームされた実際の応用を持たない抽象概念の操作
     実際の応用についてのいかなる限定も含まない、単なる抽象概念の操作のみから構成されるプロセスは、非法定主題である。クレームが、抽象概念の実際の応用の限定を含むかどうかを決定するためには、明細書を手がかりに、クレームを全体として分析しなければならない。そして、いかなる対象が操作されており、どのようにそれが操作されているかを理解しなければならない。この過程で、用途または使用分野を示す記述、データ収集動作、後続動作を評価しなければならない。クレームに、ある技術分野での実際の応用に関する限定の記載が欠けている場合のみ、101条のもとでの拒絶ができる。

101条を満足する発明かどうかの認定手順          
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